貧困が子どもたちから奪うものとは? 生活保護家庭で育った20代男性が語る「体験格差」のリアルな実情
「体験」の少ない子ども時代をすごすとどうなるのか…
子ども時代のあらゆる「体験」は、その後の成長に多大な影響を及ぼします。でも、環境や家庭の収入の問題などといった様々な理由で「体験」の機会が得られない子どもたちは、どうなってしまうのか…。そんな「体験格差」にいま注目が集まっています。 「なんで? お金ないの?」友達に言われた衝撃の一言…母子家庭の子どもが直面する“体験格差”のリアル そこで今回は今井悠介さんの著書『体験格差』から“体験の少ない子ども時代の意味”というトピックスをご紹介。 経済的な理由などで、さまざまな体験をする機会に恵まれなかった子ども時代を過ごした松本瑛斗さん。彼に話を聞き、体験格差が子どもに与える影響を深く探ります。
体験の少ない子ども時代の意味
子ども自身の目から見たとき、体験格差の問題はどのように映っているのだろうか。私たちチャンス・フォー・チルドレンがかつて教育費の支援にあたった松本瑛斗さん(当時高校生、現在20代)に、子ども時代を振り返りながら話を聞かせていただいた。松本さんの両親は彼が小学校に入る前に離婚し、その後は今にいたるまで祖母、母、弟、妹と公営住宅での5人暮らしが続いている。 進学、部活動も思い通りにいかなかったという。当時の思い、そして今の松本さんの状況とは――。
お金の制約が大きくある中で、色々やってみたいことをやってきた
―習い事に通うというのも経済的に難しそうですね。 小学生のときにみんなは習い事に行ってるけど僕は行けないとか。ゲームとかもそうかな。一回も買ってもらったことないです。 休み時間とかはよく音楽室にいました。ピアノを弾くのが好きだったので。こういう学校の活用の仕方があるんだってことをちゃんと理解してたのかもしれないです。 当時は塾に行きたいと言って母とよく喧嘩してましたね。中2、中3くらいからみんなも塾に行き始めて。でもうちでは全然無理だったので、高校受験は自分の力で乗り切ったって感じです。塾の費用はやっぱりすごい高いので。 私立の高校に行きたいとかって思ったこともあったし。私立は本当に贅沢というイメージでしたけど。 ―部活には入っていましたか。 中学では部活もしてなかったです。中3ぐらいまでは喘息で体育もほとんど参加できないくらいで。年に3回参加できたらいいかな。それ以外は休んでました。 高校生になって、吹奏楽部に入ったというか、ピアノ弾いてただけなんですけど。結局お金がかけられないので、別の学校と合同練習したりとか、コンサートとか、どこかに遠征に行くというのは、僕は行けない。そもそも吹奏楽では、ピアノは目立つ仕事ではなくて。 楽器は高くて買えないので、学校にあるピアノで。無料でできるようなところしかやってないです。トランペットとかもやってみたかったですけどね。それこそクラシックが好きだったので、オーケストラにある楽器は全部好きですし。 陸上部にも籍を置いて短距離をやってました。これも、試合に出るとかはしないで練習だけですけど。あとは、部員がいないところから何人か集めて科学部の部長をやってました。興味は広いんだと思います。一つでは飽き足らないというか。 ―お金の制約が大きくある中で、色々やってみたいことをやってきたんですね。弟さんや妹さんはどうでしたか。 自分と違って、二人ともあまり欲みたいなものを持たないですね。お兄ちゃんが「あれがほしい」「これがしたい」と言って親と喧嘩してるのを見て何も言わなくなったのかもしれないです。僕が勝手にそう思ってるだけですけど。 ―その後、大人になって、働くようになって。 今も余裕はないんですけど、5人家族の家計の半分くらいは僕が支えています。僕が20歳くらいのときに、家族全員で生活保護もやめました。車も今はあります。 人生で最初の大きな買い物は、成人してから買ったピアノですかね。電子ピアノなんですけど、グランドピアノに近い音質を出せるやつで。やっと買うことができて。 高校生のときより腕は落ちてますけど、毎日仕事に行く前に弾くようにしています。