なぜ世界卓球で伊藤美誠だけが中国に勝てたのか?
次に台からやや距離を取り豪快なドライブボールを打ってくる中国人選手の中で、劉詩ブンは前陣でピッチの速い卓球をするが、そのスピードを伊藤が上回ったことも勝因の一つだった。さらに劉詩ブンといえばミスが少ない選手として知られるが、この日の伊藤はそれと並ぶミスの少なさだった。 前陣速攻と呼ばれる戦型の伊藤はスピードがあるぶん、打ち過ぎによるミスも多く、かつては一か八かの卓球といわれた。しかし不振にあえいだ2017年シーズン、それまでほとんどやらなかったという地道な基礎練習とフィジカル強化のためのトレーニングに取り組み、技術の精度とフットワークを磨いた。その結果、相手よりも1本多く返球する粘り強さが身につきミスが減少。今回の劉詩ブンとの一戦にもその成果が表れていた。やはり決勝で中国と対戦した2月のチームワールドカップでは「まだ打ち急ぎがある」と反省していたが、世界卓球に向けた準備の中でその課題を克服してきたのだろう。 伊藤は言う。「最後もリードされてどっちが勝つかわからなかったが、粘り強さを見せられたと思う。(これまでの練習を)本当にやってきて良かった」と。 そして何と言っても、伊藤の特長である独創的な卓球が光った。彼女の代名詞とも言える「みまパンチ」こと、フォアハンドで押し出すように返球するカウンター気味のボールや、台からやや下がった位置からもネットインボールに食らいつく反応の良さ、あるいは一瞬のひらめきで驚くようなラケットの面使いをしたり、コースを狙ったりして劉詩ブンを翻弄した。 きれいなフォームで回転量の多いドライブボールを駆使する中国人選手には伊藤のようなユニークなプレーをする者は見かけない。そもそも女子選手は男子選手と違って技が限られており、伊藤のような柔軟な卓球をする選手はほとんどいない。よく伊藤の卓球が「型破り」と言われるゆえんである。 強敵の劉詩ブンにもひるむことなく、最後まで攻め続ける姿勢と粘り強さを見せた伊藤の進化した卓球はおそらく中国を驚かせたことだろう。