存続の危機を乗り越えた「市来の七夕踊」で披露された虎の張り子＝７月２７日、いちき串木野市大里

　鹿児島県内で無形民俗文化財に指定されている行事や芸能計２９６件のうち、約１５％にあたる４５件が６月時点で休止状態となっていることが、南日本新聞社のアンケートで分かった。少子高齢化による担い手不足が主な要因で、約４割は新型コロナウイルスが流行した２０２０年以降に開催を見送っていた。コロナ禍が、かろうじて守られてきた伝統文化を中断する契機になった格好だ。 【併せて読みたい】前時代的な指導や上下関係…先細る伝統行事の現実は、地域社会の在り方そのものへの問いを突き付ける〈県無形民俗文化財15％休止〉

　県内の無形民俗文化財は２４年５月時点で国指定が１２件、県６２件、市町村２２２件。そのうち休止中は２２市町村にあり、内訳は県５件、市町村４０件だった。コロナ禍以降に行われなくなったのは１１市町で計１７件あった。 　県指定では本城花尾神社春祭り（鹿児島市）、麓疱瘡踊（薩摩川内市）がコロナ禍以降に休止。野田町熊野神社の田の神舞（出水市）、町山崎の源太郎踊り（中種子町）と目手久（めてぐ）立踊（伊仙町）は、担い手不足で以前から活動していない。 　自治体別では姶良市が７件（コロナ以降２件）で最も多く、曽於市の５件（同３件）、さつま町の４件（同１件）と続いた。県本土と比べると離島地区の休止は少なく、県指定の２件に奄美市、三島村の１件ずつの計４件にとどまった。 　休止理由は休止中の文化財を抱える全ての自治体が「担い手不足」を選択。そのほか、投谷八幡宮の王子神幸祭（曽於市）は２２年の火災で本殿や道具を焼失し、続けられなくなった。

　維持のための対応策は「学校と連携し、運動会で披露」（指宿市）、「児童・生徒を青年層のメンバーに入れ、担い手育成」（和泊町）と子どもへのアプローチが目立つ。「定額の運営補助と実績に応じた活動補助を支出」（志布志市）といった取り組みもあった。 　鹿児島民俗学会の松原武実会長（７６）＝鹿児島国際大学名誉教授＝は「担い手が不足する中でコロナが決め手になった。厳しい現実だ」と指摘。「自治体は文化財に指定した意義を再評価し、何らかの手を打つ必要がある。このままでは消えゆくだけになってしまう」と話した。