製造時CO2半減…サンスターが商品化、「ブレーキディスク」の独自構造
サンスターは熱処理工程を省くことで製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を半減させた環境対応ブレーキディスク・パッドを2輪車のレース用として商品化した。焼き入れ(熱処理)をしないと材料強度が低下する弱点を持つが、独自のディンプル構造の採用と板厚の向上などでクリアした。今後、CO2やブレーキダストのさらなる削減に取り組み、2025年に量産車への採用を目指す。(根本英幸) 【写真】開発した環境対応ブレーキディスク 「ブレーキディスクは熱処理するのが当たり前。そんな固定観念に縛られない風土が当社にはある」。環境負荷低減に向け開発したサンスター技研MC事業部技術営業部の品川佳範設計開発グループ長は、熱処理を省いた原動力をこう語る。 ブレーキディスクの製造工程は、金型を作ってプレス加工し、歪みを矯正した後、焼き入れ、外径・内径切削、研磨する流れが普通だ。ただディスク製造時のCO2排出量は焼き入れ工程が52%、プレスなど他工程が48%。そこで焼き入れをなくしてしまうことから検討を始めた。 ディスクはパッドのくずのクリーニングや放熱を目的に、円盤状の鉄板表面に複数の孔が開いている。ただ熱処理をしないと材料強度が低くなり、孔を起点にクラック(ひび割れ)が発生しやすく、熱変形が生じやすいデメリットがある。 これに対し、鉄板を突き抜ける孔の代わりに、貫通しないディンプル構造を採用。ディンプルの数も12個と少なくしてクラックの発生リスクの低減を狙った。だが実走の結果、ディンプルのない場所でパッドクリーニング効果が不足して滑りが生じ、振動が発生。逆に数を48個と大幅に増やした結果、孔に対する応力値を3分の2以下に低減できた。熱変形に対しても、ディスクの板厚を増やすことで剛性を高められた。 ただ焼き入れなしのディスク材料と既存のパッドの組み合わせでは、ディスク表面が荒れ、パッドの異常摩耗が発生した。そこで東海カーボンと共同で、パッドの最適化設計に着手。パッドの摩耗量削減と配合成分の銅不使用を可能にした。 この結果、まずレーザー加工をしてバリ取りし、歪み矯正、外径・内径切削、ディンプル加工、研磨へと流れる新工法を確立した。熱処理工程を廃止したことでCO2排出量を半減したほか、プレス加工をレーザー加工に変えたことで金型を不要にした。プレス加工をやめたことで研磨前精度も向上した。 24年夏の鈴鹿8時間耐久ロードレースでスズキ製2輪車にテスト装着、8位に入賞しており、ブレーキの性能や耐久性に問題はない。今後は「社内の製造工程だけでなく、材料メーカーと素材製造時のCO2削減にも取り組みたい」と品川グループ長は話す。錆びにくいステンレス素材の活用やブレーキダストの50%削減などを進め、2輪車だけでなく4輪車の量産車市場への展開も狙う。