【高校サッカー】矢板中央、攻撃的3バックの「新・赤い壁」でベスト4の壁打破/連載2
全国高校サッカー選手権が28日に開幕する。「赤い壁」の異名を持ち、2年連続14度目の出場の矢板中央(栃木)は、初戦で2大会前の王者・岡山学芸館と対戦する。今年から攻撃的3バックに挑み、得点力がアップ。引いて守るスタイルから進化した「新・赤い壁」を全国の舞台で披露し、ベスト4の壁を打破する。 ◇ ◇ ◇ 矢板中央と言えば「赤い壁」。4-5-1の強固なブロックを軸に4度のベスト4を経験した。だが、今年はひと味違う。引いて守るのではなく、ハイプレスで前からボールを奪い、ゴールへ向かう攻撃サッカーへ変貌を遂げた。実際、プリンスリーグ関東では横浜ユース相手に3-2、浦和ユースに4-0、帝京(東京)に4-2と打ち勝っている。 矢板中央の強豪校への「第1段階」は「ブラジル留学制度」だった。高橋健二監督(56)が赴任して3年目の96年、ブラジルでプロの指導を受けられる留学制度を構築した。サッカーの本場・ブラジルで個の力を磨いた選手が留学を終えてチームに合流。ポゼッションとドリブル主体の攻撃的サッカーを展開するが、失点の多さも際だった。勝負強さに欠き、栃木県でベスト8の壁が超えられなかった。 「いい選手がたくさんいても、勝たせてあげられなかった。間違いなく自分の指導力不足だった」。周囲からは「ブラジルに行っても勝てないんだ」と散々、言われた。どうしたら勝てるか-。高橋監督は、御殿場・時之栖で偶然、当時帝京を指揮していた古沼貞雄氏を見かけた。面識はなかったが「勝つサッカーを教えてください」と直談判した。だが古沼氏に「まず、自力で選手権で全国に行きなさい」と断られた。 指導教本もない中、独学で勝つサッカーを研究した。視察したブラジルで見たサッカーは球際の強さだった。守備とハードワークを意識し、試行錯誤しながら「最後まで諦めないサッカー」を植え付けた。そして04年、念願の全国選手権出場をつかんだ。 全国出場を決めた直後だった。古沼氏から「(全国)とったね、高橋君」と電話があった。そこから、古沼氏をアドバイザーに迎え「第2段階」へと入った。一発勝負に勝つための「守備」を基本にした戦術を構築。「赤い壁」の誕生だ。栃木県で直近10年で8度の全国出場の常勝軍団へ進化し、全国から伸びしろ豊かな選手も集まってきた。 そして今年。高橋監督は、全国ベスト4の壁を打破すべく「第3段階」への挑戦を決めた。それが、攻撃的3バック。前線や中盤に技術の高い選手がそろい、4バックの1枚を削り、前線に攻撃選手を置いた。 高橋監督は「今までは(自陣の)ゴール前に張り付いて結果的に攻めきれなかった。攻撃的にボールを奪って攻撃的につなぐ。ブラジルの攻撃サッカーと、赤い壁の全部をやりたいなと」。第1段階」と「第2段階」を融合させた「新・赤い壁」のスタイルだ。 もちろん「赤い壁」の魂は変わらない。どんなに技術が高くても、守備ができない、戦わない選手は起用しない。高橋監督のポリシーだ。 指揮官は「赤い壁の守備のイメージが大きいですが、の新しいサッカーを取り入れて、全国に見せることで矢板は変わったという姿を見せたい。壁だけじゃないというところは見せたい」と強調する。 3バックの中央を担うのは主将の佐藤快風(かいふ、3年)。初戦の岡山学芸館戦に「大型のFWがいると聞いて、逆に僕らはそういうチームが大好物」と「赤い壁」のプライドをのぞかせる。日章学園(宮崎)、大津(熊本)ら強豪がひしめくブロックだが「これも運命。そこでしっかり勝ち上がることが、新スタイルの証明になる」と頼もしかった。【岩田千代巳】