緊迫のイラク情勢 いったい何が起こっているのか?
6月12日、武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」がイラクの首都バグダッドに侵攻すると発表(レバントとは地中海の東岸地帯の意味)。これに対して、バグダッドの北方120キロにある要衝サマラには、イラク軍とこれを支援する民兵が集結。15日には、北西部の少なくとも5か所で、イラク軍がヘリなどでISILを攻撃しました。なぜいま、イラク情勢が緊迫しているのでしょうか。 【図解】中東情勢 複雑に絡み合う対立の構図を整理する
アル・カイダを超えた最過激派「ISIL」
ISILはイスラムのスンニ派を中心とする組織で、これを率いるアル・バグダディ容疑者はアル・カイダ出身。2010年頃にイラクでの戦闘の責任者になったとみられます。 ところが、その後バグダディは、2011年に米軍に殺害されたビン・ラディンの後継者、アイマン・ザワヒリ容疑者と決別。ロイター通信によると、その理由はバグダディがあくまでビン・ラディンの遺志を継いで「イスラム国家の建設」を主張したのに対して、新たな指導者ザワヒリは「西側から攻撃を受けやすくなる」とこれに消極的だったからといわれます。 事実上独立したISILは、占領した地域で、イスラムの厳格な教義に基づく支配を実施。同じイスラム教徒、同じスンニ派であっても従わない者を殺害するなど、本家を超えた最過激派として知られることになったのです。
シリア内戦で活発化、油田支配し資金力強化
イスラム国家樹立を目指すISILの活動は、2011年からのシリア内戦のなかで活発化しました。 シリア内戦で、もともとシーア派のアサド政権と対立していたサウジアラビアなど近隣のスンニ派の各国政府は、スンニ派の武装組織を支援。このなかで反アサド勢力として頭角を現したのが、やはりアル・カイダ系の「アル・ヌスラ戦線」でした。 ところが、既にアル・カイダ主流派と対立していたISILは、2012年頃にイラクからシリアに入り、アサド政権だけでなくアル・ヌスラ戦線も攻撃。勢力を伸ばしたISILは、2013年末頃までにシリア東部のラッカやデリゾールを制圧。この地の油田を支配し、資金力を強化したといわれます。 こうして態勢を整えたISILは、今年1月にイラク北部のファルージャを制圧。6月9日には、イラク第二の都市モスルが陥落。バグダッド侵攻の発表は、その直後でした。