緊迫のイラク情勢 いったい何が起こっているのか?
シーア派優遇のマリキ政権への不満噴出
ISILの侵攻は、イラクをイスラム過激派の根拠地にしかねないばかりか、イラクそのものを分裂させかねません。ISILの攻撃を受けた各地では、政府軍兵士が逃亡する事態が頻発。これを受けて、マリキ首相だけでなく、シーア派の聖職者も民兵組織への参加を呼び掛けています。 マリキ政権の要職はシーア派で占められており、政府を支持して集まった民兵もシーア派がほとんど。その一部が13日、バグダッドの北方約60キロのバクバで初めてISILと衝突。イラクは、本格的な宗派対立の淵にあるといえます。 一方、政府軍が敗走した北部キルクークでは、6月12日にクルド自治政府の治安部隊が治安を掌握。この地の石油利権などをめぐり、マリキ政権と対立してきた少数民族クルド人が、油田地帯を制圧したのです。 2003年のイラク戦争後、民族や宗派を超えた協力を掲げながらも、シーア派を優遇してきたマリキ政権のもとで蓄積された不満や対立が、ISILの侵攻をきっかけに噴出したといえるでしょう。
米とイランの利害一致、中東が複雑化も
イラクに関して、米国政府は地上部隊の派遣を除くあらゆる選択肢を排除しないと言明。13日にはCNNがペルシャ湾に米海軍の空母が派遣される予定と伝えました。 一方、マリキ政権と同じシーア派のイラン政府は14日、イラクの要請があれば支援すると表明。核開発やシリア内戦をめぐって対立する米国とイランの利害が図らずも一致した格好で、中東全体の情勢がより複雑化する兆しもうかがえます。 戦闘の行方は予断を許しません。しかし、仮にバグダッド防衛に成功したとしても、イラク北部でのISIL勢力の一掃は容易ではなく、イラクがさらなる混乱に陥る危険は大きいとみられるのです。 (国際政治学者・六辻彰二)