「抑止力を高める=戦争に巻き込まれる」は間違っている…今こそ改めて学ぶべき「80年前の日本の失敗」
■自衛隊とアメリカ軍の指揮権は統一されない ――日米の連携強化に否定的な意見の奥底には「占領の延長線上で、アメリカの戦略上、いいように使われている!」という反米ナショナリズム的発想があるように思います。 【千々和】1978年のガイドライン(「日米防衛協力のための指針」)で指揮権並列型体制が明確化されています。その後の1997年、2015年のガイドラインでも「各々の指揮系統を通じて行動する」との規定は踏襲されてしていますから、有事においても自衛隊とアメリカ軍の指揮権は統一されません。そのうえで今後、どのように日米の連携を強化していくかについては、まさに調整が進んでいるところです。 2024年7月の2プラス2(日米安全保障協議委員会)でも指揮統制枠組みの向上について話し合われており、在日米軍をインド太平洋軍司令官の指揮下の「統合軍司令部」として再構成する考えがアメリカ側から示され、カウンターパートとなる日本の統合作戦司令部の重要性が指摘されました。 統合作戦司令部は、戦略三文書にうたわれ、同年5月に設置が決まりました。これは陸海空の自衛隊の統合運用を強化する目的もありますが、日米の連携においても大きな意義があるのではないかと思います。 ■日本の安全は地域の安全と不可分 ――アメリカが言うがまま、無理やり一体化させられている事実はないし、日本も自ら進んで、地域の安定に力を尽くす、との意識が必要ですね。 【千々和】日本に米軍が存在していて、日米の協力体制ができていることが、韓国防衛、台湾防衛の前提になっています。 もしアメリカ抜きで、日韓台が地域の安定を図ろうとしても、なかなか足並みがそろわなかったでしょう。さらにはフィリピン、オーストラリアともアメリカを介して連携し、太平洋地域の安定を図っています。 日本の安全保障を考えるうえでは、国家間の相互作用を前提に、現状を歴史的背景や地域全体の中に置いて第三者的に俯瞰して見ていくことが大切です。 ※本インタビューは個人の見解であり、所属組織とは無関係です。 ---------- 千々和 泰明(ちぢわ・やすあき) 防衛省防衛研究所主任研究官 広島大学法学部卒業。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。博士(国際公共政策)。内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て現職。専攻は防衛政策史、戦争終結論。著書『安全保障と防衛力の戦後史 1971~2010』(千倉書房)で日本防衛学会猪木正道賞正賞、『戦争はいかに終結したか』(中公新書)で石橋湛山賞受賞。『日米同盟の地政学』(中公新書)が日経・毎日新聞などで紹介。「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日)、「ニュースウォッチ9」(NHK)などメディア出演。国際安全保障学会理事。 ---------- ---------- 梶原 麻衣子(かじわら・まいこ) ライター・編集者 1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。 ----------
防衛省防衛研究所主任研究官 千々和 泰明、ライター・編集者 梶原 麻衣子