「抑止力を高める=戦争に巻き込まれる」は間違っている…今こそ改めて学ぶべき「80年前の日本の失敗」
■日米同盟と米韓同盟・NATOの違い ――一部には例えば「日米の軍事的一体化」に対する批判も根強くあります。戦時には米軍の司令官が指揮権を持つ韓国やNATO諸国には、そうした批判はないのでしょうか。 【千々和】まず事実関係を確認すると、日米同盟においては、自衛隊と米軍の指揮権は明確に分けられています。 一方、米韓間では有事における連合司令部トップの米韓連合軍司令官を米軍から出しますし、NATOの場合も、連合軍司令部体制における最高司令官を米軍から出しています(副司令官はイギリス軍、ナンバースリーの参謀長はドイツ軍から出るのが慣例)。 日米同盟と米韓同盟、NATOはそもそもの成り立ちからして異なります。 米韓同盟の場合、1950年に朝鮮戦争が起きましたが、あまりに当時の韓国軍が弱体だったために、李承晩大統領が国連軍司令官だったマッカーサー元帥に指揮権を移譲した経緯があります。 ■本質的な国益の一致 【千々和】NATOの場合も、始まりは第二次世界大戦下の米英の協力にあります。さらにさかのぼれば第一次大戦時もアメリカの参戦があったからこそ、何とか戦争を終わらせることができた。 そのため、ヨーロッパではアメリカの関与が死活的に重要だととらえられたのでしょう。 もちろん個別の事情があり、最近出版された鶴岡路人さんの『模索するNATO 米欧同盟の実像』(千倉書房)によれば、米欧双方に「巻き込まれ不安」はあったようです。 韓国はベトナム戦争に兵を出していますが、欧州各国はベトナム戦争には巻き込まれたくなかったし、アメリカも欧州各国の旧植民地での戦争等々にはかかわりたくなかった。 ただし、一番重要な欧州の領域防衛では一致していました。 韓国でも「軍事的一体化への批判」というより、むしろ「見捨てられ」への懸念が強く、米カーター政権が在韓米軍撤退を検討したこともありましたが、韓国側から猛反発が起きました。 日米間の国益も、本質的なところでは一致しています。 一方、日米は戦争から始まった同盟ではなく、終戦後のフェーズで作られた同盟です。あくまでも指揮権は別々で、米韓同盟やNATOとは歴史的な経緯が違うために指揮権のあり方についても違うのです。