直木賞候補・麻布競馬場に聞く「令和時代の幸せって?」 “正しさ”に苦悩するZ世代描く
■SNS投稿から直木賞候補へ 令和の“サクセスストーリー”
コロナ禍でできた“暇な時間”から始まったというSNS投稿。その投稿はやがて14万いいねを記録する“大バズリ”を記録しました。投稿をまとめた書籍が発売されると、勢いそのままに、2作目で『直木三十五賞』の候補にノミネート。まさに“令和のサクセスストーリー”といえます。 ――麻布さん自身は、ご自分のサクセスストーリーをどう捉えていますでしょうか? もともと作家になろうとか、文壇で高い評価を得ようと思って書き始めたタイプでもないし、2作目の本作もそういうつもりで書いたものでもなかったので、「直木賞候補に入りました」って電話を受けた時に一番びっくりしたのは自分だと思うんです。 その一方で大変ありがたいなと思うのが、僕の好きな小説のインターネットに書いてあるレビューとか見てると、すごく評価が低いことも多い。大体3つのことが書いてあって「意味が分からない」「子供に読ませたくない」、そして「共感できない」。 この本に共感できませんでしたっていう本が低い評価を得ることはわかるんですけど、では共感だけが本当に本の評価ですかというのはすごく思うんです。 僕自身はさっき言った3つの「ない」がある小説が大好きで。世界には理解できない人もたくさんいるし、共感できない人間やできごともたくさんあって。そういうことを読書を通じて体験するとか、思考実験的に、じゃあ自分もこういう時どうするか考えることに、現代における読書の意味があるなと思う。 自分自身も今回、意味が分からないし、共感もできないし、子供に読ませたくない本が仕上がったなって思ってるんですけど、そういった本に対して価値がないっていうふうに断罪するんじゃなくて、きちんと文学的な価値があるというふうに認めてもらえて、(直木賞候補という)評価の俎上に載せてもらったことは書いた側としてもうれしいし、一読者としてもすごくうれしいなと思います。 ――最後に、もし受賞されたらお面(猫のイラスト)はどうしますか? (顔は)出さないです! やっぱインターネット的な面白さって匿名で顔を出さないことだと思うんですね。 もちろん顔を出さないことで、文章を仕事にしてる人から「お前無責任だ」と、「顔も名前も出さずにいいものが書けるはずがない」というふうなご批判をいただくんですけど、インターネットの中で当たり前に育ってきた世代としては、顔出してないから面白いものを作れないかってそんなこと全くないと思います。 漫画とか音楽で今活躍している人の中で、実際に顔を出してない人もたくさんいる。顔を出せない人も名前を出せない人も等しく、面白いものを書けるし、書くチャンスがある。インターネット的な自由さを、文壇とか出版の世界に持ち込めたらいいなって思っています。