直木賞候補・麻布競馬場に聞く「令和時代の幸せって?」 “正しさ”に苦悩するZ世代描く
■「100点の幸せは存在しない」 麻布競馬場が見いだした一つの答え
2作を通して著者が描いてきたのが20代~30代の若者達の“苦悩”や“虚無感”です。 例えば1作目では、“地方から名門大学に入学し大手と呼ばれるメーカーに入社したものの、挫折を経て地方に逆戻りした高校教諭”など、“地方格差”や“タワーマンション”、“港区”などを通して登場人物たちのリアルな心情を描きました。 そして2作目では、「在学中に起業して人生に成功してやる」とビジコンサークルに所属するものの、実際は何もせず、他者を評価し、他者にすがるZ世代や、「仕事だけが人生じゃない」と言いながらも周囲をうらやみ、周りからの承認を求める“キラキラメガベンチャー”の新入社員を描いています。 1作目を発表して、多く届いたというのが「東京の若者はどうすれば幸せになりますか」という質問だそう。実は麻布さん自身、執筆当時は明確な答えが定まっておらず、答えを探すために2作目の執筆に踏み切ったと話します。 ――2作を通して現役世代の孤独や絶望、苦悩を描いています。特に1作目では登場人物の幸せが描かれることは少なかったように思いますが、麻布さんが考える“令和の幸せ”とはなんだと思いますか? 最後まで書いてきて、実は自分なりに答えが一つ見つかったなと思っているのは、自分だけのゴールを見つけて、そこに目がけて一人孤独に走っていくしかないんだなって思ったんです。 その時代に求められる正しさ、社会の声って頭のいい子達にはついつい理解できちゃうんですよね。でも時代が求める正しさって別に一人一人の正しさじゃないわけで。「こういうふうにすればみんな幸せになります」っていう処方箋があるはずがない。 一生懸命、自分と向き合って考えて、自分の心の形を踏まえた時に、自分だけが幸せになれるところに走っていく必要がある。でもそこに走っていったからといって、本当に自分が幸せになれるかも分からないし、そこに向かっていく過程ってすごく孤独なんですよ。 一人だけのゴールだから走っている人って一人だし、時にはかつて愛した人を置き去りにして走っていかなくちゃいけない。 幸せになるってことは100%の幸せになれるってことではなくて、恐らくたくさんの苦しみの末に自分だけの幸せを一人だけでかみ締めるっていうふうに、すごく残酷だなと思ったんです。 だからみんなが想像するようなすごく甘い100点のハッピーエンドは僕は現実の世界には存在しないって断言できるなと思っていて。そういう残酷さとか幸せを求める中での苦しみや悲しさっていうのをこれからも描いていきたいなって思っています。