直木賞候補・麻布競馬場に聞く「令和時代の幸せって?」 “正しさ”に苦悩するZ世代描く
日テレNEWS NNN
17日夕方に行われる『第171回芥川賞・直木賞』の選考会。直木賞候補に青崎有吾さん、柚木麻子さんら人気作家が名を連ねる中、デビュー2年目、2作目で選ばれたのが猫のイラストで素顔を隠す作家・麻布競馬場さん(32)(以下、麻布さん)の『令和元年の人生ゲーム』。 【画像】麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 Z世代をテーマに据えた理由や、2作を通して見つけたという“令和時代の幸せ”についてお話を聞きました。
(デビュー作『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』については7月12日掲載の記事をご覧ください)
1991年、平成3年生まれ。地方出身で、慶応義塾大学入学を機に上京した麻布さんは、現在会社員として働く傍らで小説家としても活動しています。2022年、X(旧Twitter)に投稿したツリー形式の小説が14万いいねという“大バズリ”。投稿から傑作を集めたショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』は“タワマン文学”として話題になりました。そして今回、2作目にして直木賞にノミネートされています。
■現代のゴールって? “正しさ”に翻弄されるZ世代
ショートストーリー集の1作目とは打って変わり、候補作は4編からなる長編小説。平成28年~令和5年における『大学のビジコンサークル』や『圧倒的成長を謳うメガベンチャー』など、東京の“意識高い系”コミュニティを舞台に、Z世代のリアルな苦悩や焦りを描きます。 ――今作は令和を生きるZ世代を通して彼/彼女らの人生観や苦悩を描いていますね。Z世代を主人公にした理由はなんですか? 1作目を出した時に、いわゆる“Z世代”の皆さんから熱烈な批判をいただいたんです。1作目っていわゆる“タワマン文学”と呼ばれるもので、それは平成的価値観。経済的に成功することこそが東京における成功なんだっていう。 一方でZ世代の皆さんが言うには、「もうそんな価値観は古い」と。「僕たちはもう東京にしがみつくことに興味もないし、タワマンに住むことに憧れもない」と言っていて。 (僕が)「これからはどんな価値観が来るんですか?」って聞いたらみんな意外と答えてくれなかったんです。これは別に彼らの考えが足りないとかじゃなくて、少なくとも平成世代がタワマン文学的な価値観で幸せになってないので、「あれは間違ってたんだ」ってとこまでは分かったと。 かといって自分たちがこれからどこに行っていいか分かんない、っていう令和の“どこに行っていいか分からなさ”の表れなんだろうなというふうに思ったところがスタートだったんです。 ――麻布さんが考える“Z世代の苦悩”とはなんなのでしょうか? 僕らの時代における“意識高い系ブーム”みたいな形で、“正しさのブーム”が本当に強くなっているなと思っているんです。それはいわゆる“Z世代的価値観”とか“SDGs”みたいなものに代表されると思うんですけど。 例えばZ世代にあたる若者たちから最近悩んでいることを聞くと、コンビニでアイスを買ったとして、絶対ビニール袋に入れて持っているところを写真撮らない。(Instagramの)ストーリーにあげると、石油製品を無駄にしている感じが出るのでアイスをむき出しにして写真を撮ってるって話を聞いたり。 すごい同調圧力だなと思うんです。あの息苦しさが今独特の空気を発してるなと思っていて。じゃあ本当に自分がしたいことは石油製品を減らすことなんだっけとか、正しくあれない自分に対するもどかしさとか申し訳なさっていうのは、僕らの頃の“意識高い系ブーム”とは違うものがあるんじゃないかって感じています。