新興市場がユニ・チャームの成長を牽引、海外展開を成功に導く「勝ちパターン」とは?
日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さが、近年取り沙汰されている。PBRは証券市場における株主からの評価を表す指標と言えるが、東証プライム上場企業のうち約4割がPBR1倍を割り込んでいるのが実情だ。一方、高PBRを実現する企業は、いかにして持続的な成長を維持しているのか。本連載では『ビジネススクール企業分析 ゼロからわかる価値創造の戦略と財務』(西山茂編著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。高PBR企業が持つ経営力の秘密に迫る。 ユニ・チャームの地域別売上高 第3回は、ユニ・チャームの海外戦略について見ていく(西山茂・石地由賀著)。インドやアフリカ、南米などの新興市場において次々と消費者の心をつかむ同社の「海外展開の勝ちパターン」とは? ■ 高付加価値化のポイント(1) 所得が上昇する国々への展開で価格競争を回避 ユニ・チャームの成長は、海外事業が牽引しています。2023年12月期には売上高の約66%を海外事業が占めています。海外事業比率は年々増加傾向にあります(下図)。 ■ 高付加価値化のポイント(2) 海外展開における勝ちパターン アジアなどの経済成長は市場開拓のチャンスですが、海外展開を成功させるのは簡単ではありません。世界の幅広い地域でユニ・チャーム製品が生活者から高い評価を得ている背景には、「勝ちパターン」があると同社は言います。 ユニ・チャームは、海外展開に当たり、国内のベテラン人材、エースの人材を派遣し、国内で成功したビジネスモデルの水平展開を行っています。「ユニ・チャームウェイ」を体現している本社のエース人材を現地のリーダーとして送り、ユニ・チャームの考え方や勝ちパターンの移植を任せながら、現地への権限移譲を進め、スピード感を持ったマーケティング活動や製品開発に取り組める体制を整えています。
勝ちパターンの「現地ニーズに合った良い商品」「強い営業」「巧みなマーケティング」による海外向けローカライズの成功例として、紙おむつや生理用品でシェア1位を獲得しているインドネシアがあります。 ユニ・チャームがインドネシア市場に本格的に参入したのは、1997年に合弁会社 PT Uni-Charm Indonesia(現PT UNI-CHARM INDONESIA Tbk)を設立してからです。 日本では紙おむつは大容量パックでの販売が当たり前ですが、当時のインドネシアでは、給料の支払い形態として「週払い」も珍しくなかったことから、現地の家計や生活スタイルを踏まえて、小分けパックにして、紙おむつ1枚ごとの少量包装商品を販売することで好評を得ました。また、インドネシア全土に販売網を構築するために、「ワルン」と呼ばれる路地裏の路面店やパパママストアも含めて、現地社員と連携したローラー営業によって販売チャネルを開拓しました。 大型スーパーよりも圧倒的な店舗数のあるワルンで販売したことにより、ユニ・チャーム製品が消費者の目に留まるようになり、シェア拡大を実現しました。ワルンを通じて消費者と直結する販売網を構築することで、インドネシアでは高級品だった紙おむつを中・低所得者にまで広げたのです。ユニ・チャームブランドとその商品価値を浸透させた巧みなマーケティングとも言えます。 インドネシアでの成功は、消費者への訪問を通じた生活実態やニーズの把握、買いやすい価格にするための機能の絞り込み、購入実態に合致した袋入数・パッケージの開発、現地の流通チャネルに合致した営業活動の展開など、「海外展開の勝ちパターン」が発揮された結果と言えるでしょう。 また、サウジアラビアでは、宗教上の理由で男女が同じ場所で働くのが難しい中、女性だけが働く紙おむつ工場を2012年に稼働させ、女性の雇用拡大・就労機会の提供と共に、現地の消費者に受け入れられ、米P&Gを抜いて紙おむつのシェアトップとなっています。現地の事情をくみとった細やかな対応によって、商品価値やブランドを伝えることに成功したのです。 近年では、マレーシアでのデング熱対策の蚊よけ成分配合の紙おむつ、中国、タイ、インドなどでの温感・冷感タイプや抗菌シートを使用した生理用品の発売といった、現地主導での高付加価値製品の開発を進めています。 それぞれの現地事情をよく理解してニーズに合った商品を提供し、強い営業と巧みなマーケティングを組み合わせる「海外展開の勝ちパターン」によって、成長性の高い海外市場の取り込みを実現しています。 海外展開において近年では、デジタル技術を活用して顧客視点に立った売り場づくりを小売店に提案することにより、商品の価値を最大限に伝えていくこともポイントになっています。 情報技術やグローバル化が進んだ環境の中で勝ち残るため、よりスピードを意識するとともに、試行錯誤のサイクルを俊敏に回し、環境変化に合わせて「勝ちパターン」を修正しながら、海外の各地域に移植させて横展開しているのです。 なお、ユニ・チャームは生産拠点も海外各国に多数展開しています。地域によって、直接参入と技術供与の2つのモデルを使い分けています。 アジア、中東、北アフリカといった成長期にある地域では、積極的に経営資源を投入して自社で生産・販売しているほか、各国の現地法人に権限委譲を進め、消費者の変化やニーズに迅速に対応しています。 一方で、北米や欧州など市場が成熟化した地域では、ユニ・チャームの技術をライセンス供与することによる必要最小限の投資で収益を確保しているところもあります。この点にも、地域ごとの成長ステージを意識した海外展開の戦略が見られます。
西山 茂/石地 由賀/前 綾香