警察官のカメラ着用、試験導入…「撮られたくない人」置き去りでいいのか? 弁護士「かなり課題ある」と懸念
●今回のケースを考える上で注目したい直近の裁判例
花火大会などの雑踏警備の際の録画のケースではありませんが、警察が個人の情報を保有し、第三者に提供したことだけではなく、個人の情報を収集したこと自体が違法であるとして自治体の国家賠償責任を認めた2024年9月の名古屋高裁の判決【22】も、本件の警備の際の録画の場合等の関係で、重要な判決だといえます。 この裁判例は、「何ら犯罪性や、公共の安全や秩序に対する危険性も認められない」原告らの活動について「市民運動やそのほう芽の段階にあるものを際限なく危険視して情報収集し監視を続けることが、憲法による集会や結社、表現の自由の保障に反することは明らか」である旨判示しているようです【23】。 この裁判例や先の釜ヶ崎監視カメラ事件判決に照らすと、たとえば「警備」と称して、警察官のウェアラブルカメラで、犯罪性や、公共の安全や秩序に対する危険性のない個人の行為・活動を継続的に録画すれば、違法になる場合も出てくるでしょう。
●平弁護士の見解「単純な賛否は難しいが、憲法の趣旨や警察比例の原則に適合する運用をするなら一応賛成」
警察官のウェアラブルカメラによる録画について、単純な賛否を述べることは難しいです。犯罪予防等のメリットもありますので、憲法の趣旨や警察比例の原則に適合する運用をするのであれば、という条件付きなら一応は賛成です。 憲法等に適合する運用となるかについては、これまでに述べた判例(群)・裁判例(群)の合憲性・適法性の判断枠組みにおける要件を満たすような運用となっているかどうかが重要な事項となるでしょう。 もっとも、実際には、憲法等に適合する運用という条件が成就することはとても難しいように思われます。 警察行政内部の運用に係るルールに依存するのではなく、少なくとも、合理的・明確な要件を定めた明文規定を設ける立法措置を講じなければ、そのような運用は相当難しいのではないでしょうか。 やはり、警察官職務執行法2条や警察法2条を挙げつつ、個別具体的な事実関係を前提とする判例(群)・裁判例(群)や学説等だけを参考にしながらウェアラブルカメラ録画制度を導入するという方法にはかなり課題があるように思います。 警察行政の運用に任せるだけでは、運用に係る内規・要綱が遵守されない場合も生じやすくなり、また、そもそも運用に係る内規・要綱自体が不合理な内容となる危険もあるので、警察権力が濫用される危険がより大きくなります。やはり、市民の民意を反映させた立法を作る必要性は大きいと考えます。 また、憲法等に適合する運用となるには、撮影行為を行う現場の警察官等に対する憲法や行政法の研修の実施等も重要でしょう。 なお、市民が撮影・録画することについては、公道での警察官の公務を撮影するものですから、市民が行政に管理権のある庁舎内等で撮影・録画を行う場合とも違いますので、普通は公務執行妨害や業務妨害、あるいは不法(違法)行為に当たることにはならないでしょう。 したがって、市民による撮影・録画行為自体が犯罪行為や不法行為になることは通常はないと考えられます。