警察官のカメラ着用、試験導入…「撮られたくない人」置き去りでいいのか? 弁護士「かなり課題ある」と懸念
●制約が法的に正当化されるケースなのか?
この自由の制約が正当化されるかについては、警察による録画の法律上の根拠規定についてどのように考えるのかという問題があり、さらに、この法律上の根拠の点をクリアできるとしても、「警察比例の原則(比例原則)」に反しないことが必要です。 警察比例の原則とは、警察作用(社会公共の秩序を維持する行政作用全般)には市民の自由を脅かす危険性があることから、その発動を抑制するためのものです。 この原則は、「必要性の原則」と「過剰規制の禁止」の2つから成り立っており、前者は警察違反の状態を排除するため(目的達成のため)必要な場合でなければならないというものであり、後者は必要なものであっても、目的と手段が比例(相応)していなければならないというものです【8】。 まず、本件のような警察官による録画の法律上の根拠の点につき、明文の規定はありませんが、(a)職務質問の際の録画については、強制捜査のような強制手段ではない任意手段の1つである職務質問【9】(警察官職務執行法2条1項)に付随する行為【10】として許されうることになるか、あるいは、警察法2条1項が参照されることによって許されうるものとなるでしょう【11】。 また、(b)交通違反の取締りの際の録画、そして、(c)花火大会などの雑踏警備の際の録画についても、警察法2条1項が参照されることによって許されうるものとなると考えられます。 ただし、警察法2条1項のような警察の「責務」の規定が市民の自由を制限する根拠として十分なものといえるかについては議論の余地のあるところです【12】から、警察行政内部の運用に係るルールに依存するのではなく、明文規定を設ける立法措置を講じることがより個人の自由保障の趣旨に適うといえるでしょう。
●警察比例の原則に違反する録画なのか?
警察官のウェアラブルカメラによる録画が警察比例の原則に違反するか否かという問題については、犯罪捜査目的の録画なのか、犯罪予防目的の録画なのか、という視点【13】が重要です。 犯罪捜査目的の録画の場合には、先に述べた京都府学連事件判決の射程が及びうるので、「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるとき」に許容されるという同判決の判断枠組み【14】(その要件は警察比例の原則が具体的に展開されたものといえる【15】)が妥当する場合がありますが、今回の件は、(a)~(c)すべて、基本的には犯罪予防目的の録画の場面です【16】から、同判決の判断枠組みが直接妥当する事案類型とはいえません。 犯罪予防目的の録画の場合については、「釜ヶ崎監視カメラ事件判決」【17】が重要です。 この裁判例は、「情報活動の一環としてテレビカメラを利用することは基本的には警察の裁量によるものではあるが、国民の多種多様な権利・利益との関係で、警察権の行使にも自ずから限界があるうえ、テレビカメラによる監視の特質にも配慮すべきであるから、その設置・使用にあたっては、(1)目的が正当であること、(2)客観的かつ具体的な必要性があること、(3)設置状況が妥当であること、(4)設置及び使用による効果があること、(5)使用方法が相当であることなどが検討されるべきである。そして、具体的な権利・利益【18】の侵害の主張がある場合には、右各要件に留意しつつ、その権利•利益の性質等に応じ、侵害の有無や適法性について個別に検討されることになる」と判示しました。 すなわち、この裁判例は、(1)目的の正当性、(2)客観的・具体的な必要性、(3)設置状況の妥当性、(4)設置・使用の効果の存在、(5)使用方法の相当性といった5つの要件を満たすべきであるとした上で、前述の京都府学連事件判決の趣旨から特段の事情のない限り犯罪予防目的での録画は許されないと判示しました【19】。 警察官のウェアラブルカメラによる録画についても、この裁判例が参考になります。この裁判例の判断枠組みの5要件は、警察比例の原則が具体的に展開されたものといえますので、この判断枠組みに照らすと警察比例の原則に違反する録画だとされる場合もありえるでしょう。