井上尚弥、「モンスター」ゆえの苦悩…挑戦者の「冴えない」発言にキレた!望まれる対戦相手の条件とは
■ 強すぎるからこそ、相手を選ぶ 権威ある米専門誌「ザ・リング」が選定する全階級を通じた最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」で1位に輝いたことがあるなど、井上選手の強さの指標は単なる勝利だけではない。 4本の世界ベルトを巻く井上選手と拳を交え、名声とファイトマネーを欲する選手は後を絶たない。 WBA同級1位ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)も対戦を要求し続けており、東京スポーツによれば、アフマダリエフ陣営が指名挑戦者であることを理由に法的措置も辞さない構えで対戦を強く主張している。 大橋会長はこの日、「一番の強敵だと思う」と認めながらも、井上選手が23年12月にKO勝利したマーロン・タパレス選手(フィリピン)に、アフマダリエフ選手が敗れている点に言及。「WBAがやれとさんざん言っているけど、言わせてもらうとタパレスに負けちゃってるじゃないですか。井上から逃げ回って負けたタパレスに負けているというのは、ボクシングの興行として引っかかるところ」と指摘した。 史上2人目となる2階級での4団体統一という偉業を達成からまだ1年も経っていないにもかかわらず、次なる階級変更と3階級目の統一王者などを期待される。スーパーバンタム級では、階級を超えた強さに対して求められるハードルは高い。その中で、防衛戦にふさわしいマッチメークを組む以上、相手がファイトマネーだけを目的にリスクを取らずに消極的な姿勢で挑んでくることは避けたいのが本音だろう。
■ 望まれる「ネクスト・モンスター」との対戦 こうした中、井上選手との対戦の現実味が色濃くなっているファイターがいる。10月14日にWBC世界バンタム級王者で2度目の防衛に成功した中谷選手だ。無敗の3階級制覇王者で、強打のサウスポー、26歳の中谷選手は“ネクスト・モンスター”とも呼ばれ、PFP1位を目標(現在は9位、井上選手は2位)として公言。実力も、井上選手が求める「熱い試合」を体現できるスタイルも対戦相手に求める条件を満たしているといえる。 大橋会長も「KOで勝ち上がってきている。日本人選手で1番手は中谷、盛り上がるのもこの2人ですよね。(対戦も)あるんじゃないですかね。」と対戦候補に名前を挙げた。 実際、井上選手の共同プロモーターを務めるトップランク社のボブ・アラム最高経営責任者(CEO)が米メディアに、中谷選手との“日本人対決”について計画中であると認めたと報道される。会場は東京ドームで、アラム氏は「日本ボクシングの歴史上最大の試合になるだろう」と語ったという。中谷選手もトップランク社と契約しており、興行面でもハードルは高くない。 サンケイスポーツの報道によれば、井上選手は「パウンド・フォー・パウンド1位になりたいという若者がいるんで、その若者が(スーパーバンタム級に)上がってくるのを待つしかないのかな。こんだけボクシングファンが言っているのであれば、もう口に出してもいいのかな」と話し、中谷選手の2度目の防衛戦を観た感想として「やっぱり強いなって印象がありましたよ。だからこそ、自分も興味が出てきています」と述べたという。 中谷選手は現状ではバンタム級だが、10月14日の防衛戦後には「僕の体のポテンシャルでみても、スーパーバンタム級でいけると思っている」と語っていた。中谷選手はまずはバンタム級で他団体との統一戦を希望しているが、それを実現させたうえで階級変更をしたい考えだろう。その際には井上選手も、グッドマン選手との一戦、さらには来春の米国興行を経て、さらに価値を高めていることが想定される。 井上選手は試合数が年間3試合ペースに増えても、求めるのは自身の興行にふさわしい挑戦者のみ。会見での「熱い試合」を呼びかけた異例の言動には、強すぎるがゆえに「冴えない」と言われるような試合には決してしたくないという苦悩もかいま見えた。 田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授 1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。
田中 充