舌がん「完治」の堀ちえみさんが仕事復帰までの道のり語る―ネクストリボン2024
清水公一さん(社会保険労務士事務所Cancer Work-Life Balance 代表)
2011年に長男が誕生し、その2~3カ月ほど後に肺がんがみつかった。翌年に副腎に遠隔転移が見つかり、多発転移が見つかった時点でステージ4と診断された。当時の自分は「仕事を頑張る」といった精神状態にはならなかった。 一度休職してから、初めて当時の勤務先の就業規則を確認し、休職できる期間、復職後どれぐらいの期間を置けば再休職できるかなどを知った。給料が減った分を補填してくれる社会保障制度があることも知った。 こうした経験から就業規則や社会保険制度の理解はとても重要だと思い、がんになった後に勉強して社会保険労務士の資格を取得した。今では、がん患者をサポートする側として仕事をしている。 支援者の立場としては、相談が終わった時に前向きになってもらえるよう心がけている。がん患者も1人の人間で、皆価値観が違う。就労支援をしていても、「これで仕事と治療の両立ができる」と思う人がいる一方「がんになってしまうとだめだな」との言葉を聞くこともある。相手の価値観や考え方を見極めて支援をするのが大切だと思っている。 がん患者の立場としては、その時々で気分や気持ちは変化する。周囲の方はそういったものだと理解し、温かく見守ってもらいたい。
大野真司さん(社会医療法人博愛会相良病院院長)
医師として乳がんを専門に診療するようになってから、毎日1人か2人の患者にがんの告知を行い、治療と入院などの話をしていた。1人当たり30分ほどの時間を取り一生懸命説明をして、最後に「入院日はいつにしましょうか」と尋ねると、患者から「自分は助かるか」「手術は必要か」「すぐ入院しなければいけないか」といった質問が返ってくる。 乳がんの前は消化器がんの診療をしており、同じような説明をしていたが、乳がんの患者が尋ねるような質問をされることはほとんどなかった。消化器がんの患者はだいたい60歳以上で、成人したお子さんを含む家族が患者を励ますことが多かった。そのため、なぜ乳がんの患者からかみ合わないように感じる質問を投げかけられるのか、不思議に感じていた。 今から24年前の2月、乳がんの患者に同じような話をしたところ、患者から「入院しなければいけないのか」と質問された。率直になぜそのような質問をするのか尋ねたところ、「これから子どもの学校で卒業式、続いて入学式があり、手術の日程がどうなるか気になった」と答えが返ってきた。それを聞いて「自分が病気や治療のことを話している間、患者は今後の生活のことを考えていたのか。これではいけない」と気付き、患者の心理やコミュニケーションについて勉強するようになった。 それからは、まず患者に話したいことがあるかを尋ね、話を聞いてからがんや治療について伝えるようにした。そうした反省を込めて、今は病気を診るのではなく病む人をみるという姿勢でいる。 がん患者との接し方については、がんに限らず、弱い人に対して社会がどう向き合うかとの視点が必要で、社会のあり方から変えていかなければいけない。コミュニケーションは技術であり、身につけようという意識が必要だ。備えること、知ること、コミュニケーション――この3つがあってこそ、がん患者を迎え入れることができる社会になるのではないかと思う。