ホームランを「捨てた」三冠王──WBC初代世界一の4番・松中信彦の「フォア・ザ・チーム」の精神
「平成の三冠王」から「令和の三冠王」へ
3月8日(水)、いよいよ第5回WBCが開幕する。栗山監督が率いる「侍ジャパン」には、大谷翔平、ダルビッシュ有ら4人の現役メジャーリーガーが名を連ねる。日本のトップ選手が集うなか、松中が注目するのは、やはり村上宗隆だ。 史上最年少の三冠王や日本選手最多のシーズン56本塁打など、国内最強スラッガーの名をほしいままにし、主砲の一人として初のWBCに挑む村上。2004年に三冠王、05年は本塁打、打点の二冠王という絶頂期に06年WBCの4番を任された松中と重なる。だから、聞いた。「村上は世界で通用するのか」――。 「僕は打てるんじゃないかと思いますね。(村上は)あまり、体重移動をしない選手なので。体重移動の大きい選手は(外国人投手特有の)手元で動くボールに対して、フルスイングというか100の力で当たらない。大谷君もノーステップにしてぐっと(打撃)成績が上がったからね」 メジャーリーグの投手の多くは豪速球に加え、手元で微妙に変化する厄介な球種を持っている。最後までしっかりと変化を見極めるためには視線の上下動など、極限まで省く必要がある。日本では足を上げて打っていたエンゼルス・大谷翔平が、メジャー挑戦で行った「変化」をすでに村上は取り入れている。これが、松中が「打てる」と断言する理由だ。
「4番」の重責を誰よりも知っているからこそ、村上に伝えたいのは不振に陥った時の対処法だ。 「彼も去年、三冠王を取ったけど、チームの優勝を一番の目標に挙げていた。そのあたりは(侍ジャパンでも)ぶれないんじゃないかなと思う」
「束になってかかれ」3大会ぶりの世界一へのカギ
今大会、松中が気になるのは17年前の第1回大会とは比べものにならないほど、本気になってきたアメリカやその他の強豪国だ。 「今大会は僕たちの時(2006年の第1回大会)よりも数段、いい投手がくる」 もし、出だしでつまずいたとしたら、どうすべきか。 「日本も大谷君ほか、最強メンバーで臨む。調子いい、悪いは出てくるけど、悪ければ(粘って投手に)球数を投げさせる、四球でもいいとやりながら、調子を上げていく。カバーする選手はいるので、自分が打線として機能することが大切だと思う。束になってかかっていけば、いいピッチャーでも崩せると思いますね」 自分だけで解決しようとせずに、周りを見渡せば、そこには頼もしすぎる仲間がいる。結束が生み出す力は、かけ算以上の破壊力がある。 2009年以来3大会ぶりの世界一へのカギはどこにあるのか。 「やっぱり、準々決勝が山場だよ。大谷はマークされる。イチロー君は第2回大会だったかな。ずっと打てなくて最後(決勝)に打った。投手はある程度、計算できる。打線でどれだけ点を取れるかが、ポイント」
現在、野球解説者のかたわら、長男の部活動がきっかけとなり、自身で少年ハンドボールチーム「HANDBALL CLUB KINGS」を立ち上げている。「最近は野球のボールより、ハンドボールを握ってばかりだよ」と笑うが、やはり、野球のことを語る時が一番、楽しそうだ。 「フォア・ザ・チーム」の精神でWBC優勝の原動力となったかつての4番は取材中ずっとNPB、WBCで使用したバットを手に、若き侍ジャパンたちの活躍を楽しみにしているようだった。