原作完結目前! これで見納め?『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE ユアネクスト』ヒーローとは何なのか
ヒーローの継承
本作『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE ユアネクスト』では、”平和の象徴”で皆の憧れである、かつてのNo.1ヒーロー・オールマイトの意志を曲解したヴィラン・ダークマイトが圧倒的な個の力で世界を支配しようと企む。そこで未来のヒーローを育成する雄英高校のヒーロー科1年A組を中心に、他ヒーロー科の生徒、プロヒーローたちが立ち向かう。 ヴィランの親玉の個性が錬金術、オリジナルキャラクターの謎めいた男は、赤いバイクに乗り右腕が機械と、どこか既視感があるが、ヒロアカ自体、過去のマンガ作品への影響を隠していないから問題ない。 主人公・緑谷出久の幼なじみ爆豪勝己は『AKIRA』の鉄雄を意識したものと原作者が公言しているし、ヒーローのみならず、ヴィランに至るまで過去のヒーローから着想を得たものは多々ある。それに主人公は「ワン・フォー・オール」という個性を受け継いでおり、歴代の継承者の個性もまた使用することができる。ヒーローとは受け継がれるものなのだと、示されているように思う。 こんな圧倒的な力を持ち、恐らく世界最強であろう主人公だが、彼はひとりでは戦わない。彼の周りにはいつもともに立ち上がってくれる仲間がいる。「頑張れ!」と応援してくれる仲間がいる。ヒロアカは、ヒーローモノでありながら、主人公ひとりでラスボスに立ち向かい、圧倒的な力で勝利する物語ではない。他の少年マンガとの違いがここにある。 主人公のデクというあだ名は、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」から拝借されたそうだ。原作者が思うヒーロー像がそれだという。 ヒーローとは弱き強さを持つものなのかもしれない。
ヒーローから与えられたモノ
劇場版最新作は、原作の根幹である部分をブラさず描くことで、どの角度から見ても間違いなく”ヒロアカ”であると認識できる良作だと思う。何より作品愛に溢れている。 オリジナルキャラクターを担当したゲスト声優・宮野真守の一際目立つ演技、声優初挑戦ながらヒロインを見事に演じ切った生見愛瑠、個性とは何かと考えながら主題歌をつくったVaundy。彼らの誰もが”ヒロアカ”が大好きなんだ、ということが観れば伝わってくる。皆ヒーローたちに熱を当てられてきたのだ。 荒廃した社会を舞台にしながらも、目で飽きさせない場面転換、アクションシーンを盛り上げる劇中音楽、クライマックスの振り切った作画。そしてストーリー上の細かな演出に気づいた連載読者、コミックス読者はグッとくるシーンが少なくないだろう。 ヒロアカは、ヒーロー、ヴィラン問わず、”つながり”を描いてきた。これはマンガもアニメも劇場版も変わらない。そして作中の登場人物たちだけでなく、現実社会の子ども、大人、日本、世界をつなげる作品だ。 原作者・堀越耕平が映画化に寄せたコメントを一部引用する。 「子どもの頃、毎年のように上映されたドラゴンボール映画を思い出します。観るのが本当に楽しみでした。誇張じゃなく、心臓をバクバクさせながら映画館の席に着いたことを憶えています。僕が漫画映画から与えてきた興奮と感動を、世界中の少年少女たち誰か一人にでも還元できれば幸いです!」 ヒロアカには、間違いなくソレがある。そしてソレは、 かつて子どもだった元少年少女たちにも残り火として燻っているはずだ。 連載10周年を迎えた「僕のヒーローアカデミア」は、映画公開後、8月5日発売の「週刊少年ジャンプ」36・37合併号で最終話となり完結する。 “ヒロアカ”は少年少女たちが最高のヒーローになるまでの物語。今まで、私たちが、歴代のヒーローたちから受け取ったモノは何か。Plus Ultra! 我々はもっと先へ進まなければならない。鑑賞後は、そんなことを考えさせられる。次は、私たちの番なのだ、と。
文 / 小倉靖史