「もったいないなあ」瀬古さんは若林宏樹の引退にタメ息…箱根駅伝“最強世代”青学大4年、取材記者が見た6人の素顔「原監督が明かしたハプニング」
「この子、優しいんだな」
ただし、単なる陽キャというばかりではない。私が取材していると、時に「この子、優しいんだな」と感じることがあった。 11月のMARCH対抗戦の前、不調と見られていた中大の選手のことを、「MARCHで走って、そこから一緒に盛り上げていけたらいいね」と、何気なく鶴川が話していたのだ。 ポジティブな面を押し出すのは、内面の優しさを隠すためではないのか? と想像したりもした。 箱根駅伝では念願の区間賞獲得はならず、残念そうではあったが、優勝できたことに安堵していた。 「人生初のお腹への差し込みで、ペースアップできませんでした。いつも通り準備したんですが、やっぱり、初めての箱根駅伝で緊張していたのかな……。それでも、ここがスタートです。いい経験が出来たと思って、頑張ります」 4月以降も、もちろん競技継続。日本選手権の5000mで13分18秒51のタイムをマークし、「日本記録更新(従来の記録は大迫傑が持つ13分08秒40)、12分台もいつか出せると思います!」 社会人になっても、ぜひとも陽キャ継続を願いたい。
【2】若林宏樹…瀬古氏が「もったいないなあ」
鶴川をブロック解除した若林だが、3度目の5区で区間新記録の快走。しかし、競技生活からは引退し、一般企業へと就職する。その情報を聞いた瀬古利彦氏は、「もったいないなあ。続けて欲しい」と話していたが……。 若林は1年生の時から、堅実さがうかがえた。座談会で誰かが暴走しそうになると、バランスを取る行動、発言をしていた。「寮での1年生の仕事も、みんなできちんとやって欲しいなと思います」などど、柔らかく、同級生を牽制するタイプだなと思った。 4年間トータルで考えると、3度の優勝が出来たのは若林の功績が大きかった。彼が走れば優勝。走らなかった2年生の時は3位。前々回のことを原晋監督はこう話してくれたことがある。 「12月29日に区間エントリーがあるでしょ。当然、5区は若林です。ところが元日、レースの前日になって、『お話があります』と若林が言って来てね。なにかと思えば、体調が悪いと。熱もあったようでね。それでも、状態を見る限り、走れないことはないだろうと思ったんだけど……。仕方がないので区間変更。ただ、エントリーはしているから融通がきかず、山下りの選手を5区に持ってきて、本来は6区4番手の選手を起用せざるを得なくなったわけです」 こうしたハプニングがあったのだ。 瀬古氏は「区間距離が短くなったとはいえ、やっぱり箱根駅伝は5区が勝負を決めるんです」と話していたが、若林の存在は青学大にとって大きな財産だったのだ。 これからはスーツを着ての仕事。彼ならば、企業生活にすんなり溶け込みそうな気がする。 ◆◆◆ じつは1年時にキャプテン候補と目されていたのが野村昭夢である。 <《野村・太田》編に続く>
(「スポーツ・インテリジェンス原論」生島淳 = 文)
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