キヤノン「PowerShot G1 X Mark III」開発者インタビュー
「レンズ構成を9枚でどうやって抑えたかというと、非球面レンズを9枚中4枚採用したことにあります。高画質を維持しながらも9枚でこのスペックを実現したというのがポイントです。とにかく画質ありきでレンズ枚数を少なくすることに腐心しました」(伊藤さん) この「PowerShot G1 X Mark III」はインナーフォーカスを採用している。これは、レンズの前玉(一番前にある大きなレンズ)は動かさず、中間部あるいは後部にあるレンズを動かすことでピントを合わせる仕組み。このインナーフォーカスのメリットは、ピント合わせを行ってもレンズ全長が変わらない点。そして、レンズシステム自体のサイズを小型化できる点が挙げられる。 ただ、カメラはレンズだけでは撮影できない。当然、そのレンズを収める鏡筒部が必要となる。ズームレンズの場合、その鏡筒を動かして広角側、望遠側のズーミングを行うのだが、このインナーフォーカスを含めた鏡筒部のメカを設計したICB統括第三開発センター上原匠さんによると「9枚のレンズと鏡筒に仕立てたときに、どのように沈胴厚を薄くするかという課題がありました。レンズの移動量のカメラサイズへの影響を考慮し、光学設計の伊藤と設計初期段階から何度も議論を重ね、小型化に適したレンズと鏡筒メカの両立を実現しました」という。
さらに、今回の「PowerShot G1 X Mark III」が大型のAPS-Cセンサーを採用していることも、レンズ鏡筒のメカ担当を悩ませた部分であったという。 「レンズ群の中で一番センサーに近い“後玉”と言われるレンズは、センサーサイズによって直径が決まってくるんです。通常、レンズ鏡筒ユニットの中にはズーム機構以外に、フォーカスやシャッター、手ブレ補正、絞りといったメカが入っていますが、そういったメカのアクチュエーター(電気信号を物理的動力へと変換する機械)は後玉の周りに配置することができます。しかし、今回は大型のAPS-Cのため後玉の径が大きく、メカとして使えるスペースが今までの機種に比べて小さい。その中でどのようにメカを構成していくか、今までの機種で設計してきた標準的なレイアウトがあるのですが、そういったものが一切使えず、イチから全部考え直さなければなりませんでした」(上原さん)