「夜行列車」復活のカギは? 資金調達・車両確保・運行体制、誰が・どこで・どう実現するのか?
筆者への反対意見
一方で、夜行列車の再開に対して反対の意見も存在する。筆者の基本的な考え方を述べたが、以下に示すような異なる視点もあるため、両方の意見を紹介する。 ●収益性の懸念 夜行列車は新幹線や格安航空、高速バスといった競合交通手段と競り合うなかで、利益を確保できるか疑問視する声もある。特に、比較的可処分所得が低い若年層を中心に夜行高速バスが定着し、その影響でブルートレインが衰退した過去があるためだ。 また、利用者数の少ない日や季節による収益のばらつきも問題視されており、特に夜行高速バスの充実ぶりが大きな脅威となり、採算が取れるかどうかの懸念が高まっている。 ●実現性に疑問符が付く運行体制 夜行列車専業の事業者、例えば「JR夜行」のような新たな事業形態には、貨物を組み合わせてコンテナハウス的な夜行列車を運行するというアイデアもある。これにより、資源を有効に活用できる可能性がある。 しかし、国内の人口減少やオンライン会議の普及を考慮すると、過剰なリスクを負うことになるのではないかという懸念もある。加えて、運行には専門的な技術や設備が求められ、その費用負担をどこが担うかが大きな課題となる。 ●需要の不確実性 夜行列車の需要が再び復活するかどうかは不確かであり、特に若年層やビジネスパーソンを中心に、移動手段としての需要がどこまで高まるかは予測が難しい。鉄道事業者による次世代寝台列車のマーケティングリサーチが水面下で進められているという情報も複数ある。 具体的には、食事や個室の仕様、車両の数、価格帯などに関する調査が行われていると聞く。しかし、これらの調査はあくまで調査にすぎない。さらに、インバウンド需要の不確実性が高いため、長期的な運行計画の策定には慎重さが求められる。
収益確保のカギはターゲット特化型
夜行列車の運行再開については賛否両論があり、どちらの意見も十分に考慮する必要がある。しかし、実現に向けて現実的な方策を模索することが求められる。 まず、「収益性の確保」が重要だ。競争が激化するなかで、運行本数を調整し、ターゲット層に特化したサービスを提供することが不可欠である。ユニバーサルサービスは重要だが、特定のターゲット層に向けたサービスを提供することで差別化を図ることができる。特に観光列車としての側面を強化し、観光地へのダイレクトアクセスを重視する運行方法が効果的である。また、食事や個室の充実化など、付加価値を高めることで収益を確保する方法も考えられる。 次に、「運行体制の効率化」が求められる。JRグループや民間企業が協力し、専門の事業者として運行体制を構築することが望ましい。運転士や整備スタッフの確保においては、既存の鉄道運行のノウハウを活用し、コスト削減と効率化を進めることが大切である。また、昼行と夜行が混在する場合、コストがかかるため、夜行列車一本化により車両や人的資源を集中させることが効果的である。さらに、夜行旅客と貨物を共用化するなど、新たな展開も検討する価値がある。 最後に、「段階的な実施と柔軟な対応」が求められる。夜行列車の運行再開には、まず主要都市間を結ぶ区間からスタートし、需要に応じて運行路線や本数を調整する方法が現実的である。また、急な需要に柔軟に対応できる体制を整えることも重要である。例えば、万博やスポーツ大会などのイベントに合わせた運行調整を行うことで、需要に対応できる。 夜行列車の運行再開が鉄道業界全体の活性化や観光業の振興に貢献する可能性は高いが、その実現には慎重かつ計画的なアプローチが求められる。関係者間での協力とコミュニケーションが不可欠であり、しっかりとした連携が必要である。 皆さんも、夜行列車復活についての意見やアイデアをぜひ共有してほしい。
北條慶太(交通経済ライター)