【社説】選挙とSNS 偽情報の見極めが必要だ
交流サイト(SNS)や動画サイトが選挙で影響力を増している。 候補者の政策や人物像をはじめ、有権者に投票の判断材料を伝える有効な手段だ。半面、うそや誤った情報、誹謗(ひぼう)中傷を広げる弊害もある。 こうしたネット選挙の長所と短所の両面がくっきりと表れたのが、17日の兵庫県知事選である。 当選したのは、県職員に対するパワハラ疑惑で県議会の不信任決議を受け、失職した斎藤元彦氏だ。 政党や組織の支援はなかった。当初の劣勢を覆したのはSNSや動画サイトの影響力が大きい。 陣営やボランティアが発信する活動の様子、応援メッセージが共感を広げ、街頭演説に大勢の人が押し寄せた。さらにその動画や画像が拡散され、支持者を増やした。 共同通信社の出口調査によると、SNSが身近な若い世代を中心に斎藤氏を支持する傾向が強かった。 SNSは若い世代が選挙に関心を持ち、政治に参加するきっかけとなり得る。ただし、兵庫県知事選の情報は虚実が入り交じっていた。 斎藤氏のパワハラはなかったとする根拠不明の情報が広がり、疑惑を否定する斎藤氏が県議会にいじめられているかのように強調された。 対立候補が当選した場合に「外国人参政権を進める」という虚偽情報もあった。本人がいくら否定しても、ネットで再生産されるイメージを払拭するのは難しい。 本来の選挙を逸脱する行為もSNSを過熱させた。候補者の一人は当選するつもりがなく、斎藤氏を後押しする発信を続けた。 ネットを使った選挙運動が解禁されて10年余りがたち、SNSは国政選挙、地方選挙を問わず定着している。 その戦略にたけたのが、東京都知事選で165万票を獲得した前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏であり、衆院選で躍進した国民民主党だ。 知名度が低くてもうまく使えば組織選挙に対抗できる。今後も選挙運動の重要な道具となるのは間違いない。 懸念もある。有権者の耳目を引くことばかりが行き過ぎると、候補者がより過激な言動に走りかねない。世論操作に悪用されることも十分に考えられる。 いかなる活用方法であっても、うその情報や妨害行為で選挙の公平、公正を損なってはならない。 有権者は、SNSに真偽がはっきりしない情報が含まれていることを理解してもらいたい。不用意に拡散すると、他者の人権や名誉を傷つける恐れがある。 兵庫県知事選で有権者の多くがSNSに情報を求めた背景として、新聞やテレビへの不信が指摘された。 私たちは事実に沿って、正確な報道に徹する。ネット選挙の時代においても、その姿勢は変わらない。
西日本新聞