『ぼっち・ざ・ろっく!』結束バンドのライブを“真空パック”。ヤマハの自動演奏技術で銀座がSTARRYになった
ヤマハは、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』作中バンド・結束バンドのステージを、同社の自動演奏技術「Real Sound Viewing」で再現するイベント「DIVE STAGE」を10月25日(金)から27日(日)の3日間にかけて、銀座のヤマハ銀座スタジオにて開催する。10月24日、メディア向けの体験会が実施されたので、その模様を紹介しよう。 【画像】よりリアリティを出すため、キャラの身長に合わせてセッティング。ぼっちちゃんが四角くなっちゃった! ■ヤマハ最新技術で結束バンドを真空パック。STARRYでの演奏をリアルに再現 同社ではライブやコンサートの体験を無形の音楽・文化資産として保存することを目指した取り組み「ライブの真空パック」を実施しており、本年9月にはロックバンド・LUNA SEAとアンバサダー契約を締結。メディア向けの「LUNA SEA Back in 鹿鳴館」再現ライブなども披露されていた。 この取り組みの核となるのが、アーティストの演奏をデジタル化して正確に記録し、楽器の生音による演奏を忠実に再現するシステム「Real Sound Viewing」だ。例えばドラムであれば、プレイヤーの演奏をセンサーによって計測・データ化し、独自開発の振動伝達装置を取り付けたドラムセットで正確に再現することができるという。 ギターやベースには新開発の「リアンプシステム」を使用。通常、ギターやベースの出音は音を変化させるエフェクターを通って、アンプから出力される。このエフェクターを通る前の音を録音し、生演奏ではなく収録音をアンプから出力する手法が「リアンプ」だ。 リアンプ自体は昔から一般的に使われているものの、ダイレクトボックスやリアンプボックス、オーディオインターフェイスなど、使用する機器の特性によって音が変わってくるため、100%の再現は難しい状態だったという。 そこでヤマハは、上記のリアンプ用機器をトータルで再設計し、音の変化が限りなく少ないリアンプシステムを開発。ライブで弾いた瞬間の音を忠実に再現することに成功したとのこと。 なお、一般的なリアンプは先述の通りエフェクターを通る前の音を収録するが、今回は「エフェクターを通った後の音」を収録しており、エフェクターを使った奏法もそのまま再現しているそうだ。 開催されるDIVE STAGEイベントは、上述した技術によって結束バンドの演奏を再現する試み。ステージ上にはアンプやドラムセット、マイク、演者が自分の音を確認するための「モニター返し」がセッティングされている。この機材選定やサウンド設定などはアニプレックスの担当ディレクター、および編曲やギター演奏で深く携わるギタリスト・三井律郎らの協力のもとで行われたとのこと。 本イベントの面白いところが、演奏中にステージの上を自由に動き回れること。各種機材に触るのはNGなものの、ドラムが実際に動いているところを間近に見ることができるだけでなく、アンプやモニター返しの出音を直に聴けたりと、アーティストがステージ上で聴いている音を追体験することができる。 また、本イベントの会場となるヤマハ銀座店地下2階「ヤマハ銀座スタジオ」はキャパシティ200人程度のスペースなのだが、これは結束バンドが拠点とするライブハウス・STARRYのモデルになっている下北沢SHELTERと同じくらいなため、「結束バンドがSTARRYでライブする雰囲気を感じられるのでは」と語っていた。 ■ライブの“生の質感”を高レベルに再現。ステージ上で演者が聴いている音も体験できる イベントの最初には、結束バンドメンバーによる録りおろしのMC音声が流される。ここでイベント概要の紹介やReal Sound Viewingの解説などが行われるかたちで、機材に詳しいリョウ先輩曰く、「ライブハウスではアンプやモニター返しの出音もサウンドの一部になってくる」そう。 本イベントでは、結束バンドの楽曲「光の中へ」のMVとともに、このために楽器陣の演奏を再収録したという「光の中へ~Real Sound Viewing Ver.~」が流される。まずはフロアで聴いてみたが、開幕から全くもって音が違う。ギターアンプやベースアンプ、ドラムが音を発し、空気を震わせることで生まれる独特の“熱”のようなものが見事に再現されているのだ。 ぼっちちゃんが奏でる噛みついてくるようなオーバードライブサウンドや、リョウ先輩のベースのうねりなども生々しく再現。一般的なライブビューイングなども決して悪いわけではないが、やはりバンドのライブには、現地でしか味わえない“生の質感”というものがある。それをかなり高いレベルで実現してくれているように感じられた。 続いてステージ上に上がってみると、ドラムがひとりでに動き、アンプから音が出ていることを確かめることができる。個人的に感心したのがモニター返しで、ぼっちちゃんの前は上手ギター強め、リョウ先輩の前はほぼベースメインだったりと、一人ひとりに合わせて出音が調整されているので、参加される方は是非とも確かめてみていただきたい。 イベントでは光の中へが計3回演奏され、1人につき1回ずつフロア前方・ステージ上で聴くことができる。好きなメンバーの最前に立ってみるもよし、リョウ先輩よろしく後方で腕組みしながら聴いてみるもよし、目一杯STARRYの雰囲気を感じ取ってみてほしい。 ■アーティストやエンジニアの勉強など、活用方法はライブだけではない ヤマハの技術担当者によると、基本的にはリアンプシステムやドラムの振動伝達装置などがあればどこのライブハウスでも自動演奏が可能で、加えてアンプやドラムセットなどもしっかり揃えれば、それこそ海外でも手軽に現地さながらの体験ができるという。 とはいえReal Sound Viewingを正しくセッティングし、個々のライブハウスに合わせて調整するためにはヤマハ側からもエンジニアを送る必要があるだろう。こういった部分も含め、今まさに体制を構築しているところだと語っていた。 本技術が活きるのはライブだけではない。プロのアーティストがステージ上でどんな音を聴いて、どのようにモニター返しをセッティングしているかなどを体験できるのは、アーティストの卵にとっては貴重な勉強の機会だ。また「生演奏に限りなく近い音を、いつでも寸分違わず出力できる」特性は、例えば音響系の学校でのマイキングの練習などでも活躍してくれるという。 もう一つ、今回はそこまでフィーチャーされていなかったものの、「ライブの真空パック」を構成する要素の一つである「GPAP(General Purpose Audio Protocol)」にも触れておきたい。 GPAPは音響/映像/証明/舞台演出などライブにまつわる各種データを全てwavフォーマットで保存する世界初のシステムだ。フォーマットをwavに統一することにより、オーディオレコーダーがあれば全てを保存できるうえ、PCのDAW(Digital Audio Workstation)ソフト上でコントロールできるという。 照明や映像データを作曲ソフトで動かす、と考えるとあまり想像がつきにくいが、ドラッグ&ドロップでコンマ1秒の調整が行えたりと、慣れれば従来の方式より使いやすくもなるとのこと。また、現場にいなくても自宅からPC上でセッティングできるのも魅力のひとつ。 さらにディレイなど一部の音楽用エフェクトのプラグインは照明にも使えるほか、照明用・映像用など各種データ専用のプラグインを開発することも可能だったりと、DAWソフトならではの使い勝手の良さがあるそうだ。 今回のDIVE STAGEは3日間にわたって開催されるが、チケットはすでにソールドアウト。それもかなり高い倍率での抽選になったそうで、「イベントの反響によって今後の展開も考えたい」と語ってくれた。ヤマハの新しい取り組みに今後も注目していきたい。
編集部:杉山康介