餅を試合前に食べるのはなぜ?アスリートが餅を選ぶ理由とおすすめの食べ方【管理栄養士が解説】
餅は、マラソン選手が試合当日の朝に食べていたことから、「勝負めし」として注目されるようになりました。アスリートが試合前に餅を食べると、どのような作用が期待できるのでしょうか?この記事では、エネルギー源としての餅の特徴を管理栄養士が解説します。スポーツに取り組んでいる方はもちろん、試験を控えている方もぜひ参考にしてくださいね。 〈写真〉アスリートが餅を選ぶ理由とおすすめの食べ方は ■餅は「腹持ちがよい」って本当? 餅に含まれる主な栄養素は糖質です。糖質は身体活動のエネルギー源となるため、試合に臨むアスリートは十分に摂取しておきたい栄養素です。 かつて餅は「腹持ちがよい」、つまりゆっくりと消化吸収されて持続的にエネルギーに変わるといわれていました。しかし最近はその反対で、餅はご飯よりもすばやく消化吸収され、早くエネルギーに変わると考えられています。 餅は米から作られますが、普段の食事で食べるご飯(精白米)と餅の原料となる米は種類に違いがあり、含まれる糖質の構造も異なります。 精白米はうるち米、餅の原料はもち米です。米には、糖質の最小単位であるグルコース(ブドウ糖)が鎖のようにつながったでんぷんが含まれています。うるち米はアミロースとアミロペクチンという2種類のでんぷんを含む一方で、もち米はほぼアミロペクチンのみで構成されています。 アミロースはグルコースが直線状につながった形をしていますが、アミロペクチンはいくつも枝分かれした構造でグルコースがつながっているのが特徴です。でんぷんは消化酵素の働きにより、最終的にグルコースまで分解されます。枝分かれが多く表面積が大きいアミロペクチンは消化酵素の作用を受けやすいため、餅の方がご飯よりも早く消化吸収されるのです。 また、餅はもち米を蒸し、つぶして作られます。そのため、米粒を炊いただけのご飯よりも消化しやすい形状になっていることも、餅がエネルギーに変わりやすい理由といえます。 ■餅は効率のよいエネルギー源! 効率よくエネルギーを補給できることも、餅の特徴です。糖質の補給源となる食品について100gあたりの糖質量を比較すると、次のようになります。 食品/糖質(g) 餅/50.3 ご飯/35.6 食パン/42.2 ゆでうどん/20.3 同じ重量で比べた場合、餅はより多くの糖質を含むことがわかりますね。 餅が糖質を多く含む理由のひとつは、水分量の違いにあります。炊飯するご飯やゆでるうどんは食材が吸収する水分量が多く、ご飯の約60%、うどんの約75%は水分です。一方で、餅はもち米を蒸して作るため、水分量は45%程度と少なめです。 焼いて作る食パンは水分量が少ないものの、小麦以外に油脂や食塩などの材料を含みます。したがって、餅は水分量が少なく副材料も含まない分、もち米の糖質がぎゅっと凝縮されており、相対的に糖質量が多くなるのです。 このように、餅はすぐに消化吸収されてすばやくエネルギーに変わるうえに、少量でより多くのエネルギーを補給できるため、アスリートの試合前の栄養補給に利用されていると考えられます。 とくに試合前は緊張して、食事が喉を通りにくくなる人もいるでしょう。少量でも効率的に糖質を摂取できる餅は、試合当日の食事に最適といえます。 ■試合前には「からみ餅」がおすすめ 餅の消化吸収をさらによくするなら、からみ餅にして食べるのがおすすめです。 からみ餅とは、やわらかくした餅に大根おろしをのせ、醤油をかけた料理のこと。大根には、でんぷんの分解を促進するアミラーゼという消化酵素が含まれています。そのため、大根おろしを一緒に食べると餅に含まれるでんぷんの分解が促されて、効率よく消化吸収されることが期待できます。 消化酵素のアミラーゼは唾液にも含まれる成分です。餅の食感を楽しみながらよく噛んで食べると唾液の分泌が促され、でんぷんの分解がさらに促進されるでしょう。 糖質は脳のエネルギー源でもあるので、スポーツの試合前だけでなく、頭を使う試験の前に餅を食べるのもおすすめです。勝負の日の朝食には餅を食べて、実力をしっかり発揮するためのエネルギーを補給してはいかがでしょうか。 【参考文献】 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 阿久澤さゆり「デンプンの分子構造と性質の基礎」 齊藤篤司「アミロース含有率が糖質食後の血糖応答に及ぼす影響」 ライター/いしもとめぐみ(管理栄養士)
いしもとめぐみ