<ルックバック>AIでは表現できない線 人間が描く意味 押山清高監督インタビュー(2)
「ある種の独りよがりで傲慢なところでしょうか。クリエーターに関わらず、才能と出会ってしまうと、負けられない。負けを認めたくないという気持ちが芽生える。自分が勝負しているところで、やっぱり負けるわけにはいかないし、譲れないものがある。藤野はそういう才能に出会ってしまったわけです。僕らの業界も負けず嫌いじゃないと続けられないし、うまくなれない。純粋に才能だけでひょうひょうとした天才もいるかもしれないけど、そういうふうに見せているだけで、内心は負けたくない!と思っているはずです」
青春を描いているようにも見えるが、普遍的なテーマなのかもしれない。
「青春で終われたらいいんですけど、そのままではいられない。うかうかしていたら、あっという間に若い人たちに追い抜かされていきますし。比べても仕方がないところもあるけど、比べてしまうのは人間の性(さが)なんでしょう。40代くらいになって、上に立つ者として、そういう気持ちをいつまでも持っていると恥ずかしいとも思うかもしれない。でも、クリエーターの世界は、そんな眠たいことを言っている場合じゃない。独りよがりにならないとやっていけない。藤野がやっていることも、そういうことなのかもしれません」
◇アニメーションのダイナミズムを
原作のコミックスには、マンガを描く藤野の背中が描かれている。アニメでも藤野の背中にフォーカスしたシーンが多く見られる。
「この作品における背中は、ある種のアイコン的な意味を持っているので、映画化の際に、原作以上に背中を象徴的に描こうとしました。机に向かっている姿は、マンガにしても勉強にしても何かに打ち込んでいるように見えて、努力の象徴のようにも思えます。この作品は、クリエーター賛歌でもあって、藤野の努力する姿を見せたかった。努力した人に共感してもらえると考えました」
藤野がマンガと向き合いながら貧乏ゆすりする動きも印象的だ。