「ただ食べている姿を観たい人がいることを『孤独のグルメ』が開拓した」松重豊&松岡錠司監督が語るコミック映像化秘話
五郎は誰かのために何かしようと思ってない
松岡:五郎は、自分が面白いと思ったことを、いい年になってあそこまで追求している。“幸福な人”だと思います。 松重:五郎自身は、自分が孤独だとは思っていませんし。もし「『孤独のグルメ』の主人公ですよ」と伝えたら、「は?」となると思います。「僕は孤独じゃないし」と。 松岡:本人は自分の好きなように店を探し回って、ひとりで食べて満足している。それを客観的に見たときに、ある種の孤独だろうと思うことはあるけれど。いろんなところに行って、渡り歩いて、ひとつの満足を得ている。そうしてただ食べている姿を観たい人(観客)がいることを『孤独のグルメ』が開拓した。ところで後半の話は、最初から構想にあったんですか? 松重:ありました。伊丹十三監督の『タンポポ』もそうですけど、ひとつ「店の再生」というテーマがありました。僕らもドラマで本当にいろんなお店を使わせていただいてきましたが、コロナ禍があって、そうした方たちが苦労しているのを感じていました。やっぱり、なんらかの形でエールを送りたかった。どうしようもなくなっている飲食店が何かのきっかけによって立ち直る画(え)が観たかったんです。しかもそれは五郎が何かやったからというわけではなく。 松岡:やってるんだけど、無自覚だからね。 松重:それも再生させたくてやっているわけじゃない。誰かのために何かしようとか、誰かに捧げようという気持ちは毛頭なくて、運命のようにたどり着いた人たちとの出会いに、気持ちが動いた結果でしかない。意図せぬものになっているという主人公の立ち位置や生き方が、きっとお客さんにも共感されるところなんじゃないかなと。はたから見れば孤独なおじさんかもしれないけど、別に幸せなんじゃないかなと感じられる1時間50分にしたいと思いました。 松岡:あと最後にどうしても触れたいのがエンドロール。あれがよかった。 松重:よかった。何か言われるかと(笑)。 松岡:観客を慰撫する肌触り、幸福感がありましたよ。 【松重豊】 1963年、福岡県出身。蜷川幸雄主宰の蜷川スタジオを経て、映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍。近年の出演作に映画『青春18×2君へと続く道』『Cloud クラウド』『正体』など。著書に『たべるノヲト。』(マガジンハウス)がある 【松岡錠司】 1961年、愛知県出身。1990年、『バタアシ金魚』で劇場用映画監督デビュー。代表作に『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(’07年)など。’09年に始まった『深夜食堂』シリーズは、中国などアジアでも高く評価されている 取材・文/望月ふみ 撮影/杉原洋平 ヘアメイク/高橋郁美 スタイリング/増井芳江 【望月ふみ】 ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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