「エンジェルコア」から「ポスト・エンジェルコア」へ――“天使の羽根”が意味するもの 連載:ポップスター・トレンド考察
筆者が過去に取材した際、nyamura本人は「自分のキャラデザインに天使の輪っかを入れているんですけど、それは、中1の時くらいから聖書がめちゃくちゃ好きなんですよ。何かを信じているわけではないんですけど、ずっと大好きで。天使の、何もしなくても人が集まってくるという形骸的なところが好きなんです」と語っていた(「rockin’on JAPAN」23年12月号)。冒頭で、「エンジェルコア」とはさまざまなインスピレーション源から得た天使のイメージがルーツになっていると述べたが、nyamuraの場合はそれが聖書だったということだ。
加えて、国内においては90年代後半~00年代のギャル文化やビジュアル系界隈でも天使の羽根が使われてきた歴史があるし、他にはthe brilliant green(ザ・ブリリアント・グリーン)の川瀬智子が07年に「Enemy」のMVで羽根をまとっていた事例もあった。もともと「天使のたまご」から「灰羽連盟」「Angel Beats!」と、いつの時代も天使をモチーフにしたアニメーション作品が作られてきた文脈も存在している。海外の「エンジェルコア」の解説サイト(※2)ではそれらインスパイア源が記されているケースがあり、この文化圏にジャパンカルチャーが大きな影響を与えているであろうことも推察される。
※2 https://aesthetics.fandom.com/wiki/Angelcore
「フェアリーコア」や「バレエコア」とのクロスオーバーと、ジャパンカルチャーからの影響によって、その美学の持つ定義が拡大していった「エンジェルコア」。ついには昨年あたりから、象徴的なアイテムとしての天使の羽根がより広範囲で観測されることも増えてきた。ル・セラフィム(LE SSERAFIM)の「UNFORGIVEN」のMVや、「ロエベ(LOEWE)」の23年秋冬メンズキャンペーンに起用された際の米津玄師などがその例だ。現世から浮遊したファンタジックな感覚を表現する際に参照される「エンジェルコア」の美学は、今後、対極にあるはずの「デビルコア」や「ウィッチコア」といったムードとも価値観を対比させながら、20年代後半へ向けてさらに形を変えていくかもしれない。