「エンジェルコア」から「ポスト・エンジェルコア」へ――“天使の羽根”が意味するもの 連載:ポップスター・トレンド考察
「ポスト・エンジェルコア」の潮流
22~24年にかけて、「エンジェルコア」は隣接する美学と密接に影響を与え合うことで、「ポスト・エンジェルコア」ともいえるような形へ進化を見せた。まずは、「フェアリーコア」や「バレエコア」といった儚げでドリーミーな傾向との融合。さらに、神秘と退廃をあわせもったような新たな音楽の潮流――Spotifyの人気プレイリストの「Ethereal」や「Femme Fatale」が持つムード観――との共振。その過程で、カラーパレットは次第に白の配分を増やし、ますます透明感を携え、現世から浮遊するような発展を遂げていった。サウンドとしては、もともとあったアンビエントへの関心に加え、シューゲイザーやドリームポップの恍惚感、サッドコアやスロウコアの陰鬱さも内包しながら変容することに。そういった意味で、「ポスト・エンジェルコア」とは、哀しげで柔らかい質感を追求していくことにより、ルーツとして持っていた「天使」をより強く希求していったともいえよう。結果、“天使の羽根”といったシンボリックなアイテムを身に着けるような動きも広がっていった。「ファイナルファンタジー」など、一部ゲームからの影響を取り入れているケースもある。
※TikTokでの#angelcoreの投稿 https://www.tiktok.com/tag/angelcore
今、「ポスト・エンジェルコア」の美学を最も体現している人物といえばウィスプ(Wisp)だろう。米サンフランシスコ出身のアーティストである彼女はTikTokで22年にブレイクして以降、メタルやハードコアも経由したようなシューゲイズサウンドをDTM(デスクトップミュージック)で制作し、匿名性をまといながらデビューした。今年リリースした「Pandora」のMVでは天使の羽根を身につけ、ノイジーなカタルシスを鮮やかに描出してみせている。80年代後半~90年代のシューゲイザーというとガレージ&サイケな服装のプレーヤーが多かったが、それを全く異なるムードへと解釈してみせたのだ。