「エンジェルコア」から「ポスト・エンジェルコア」へ――“天使の羽根”が意味するもの 連載:ポップスター・トレンド考察
メラニー・マルティネスの「K-12」に出演していたElita(エマ・ハーベイ)も、「ポスト・エンジェルコア」として独自の感覚を表現している。ファンのことを“エンジェル”と呼び、「フェアリーコア」や「バレエコア」の要素も取り入れながら幅広い音楽性を打ち出している彼女の楽曲は、多くの「エンジェルコア」のプレイリストにキュレーションされている。
「エンジェルコア」が解釈を変え、隣接するさまざまなスタイルとの折衷を繰り返す中で、この美学は大きなライフスタイル概念へと変貌していった。それと同時に、さらなるルーツの掘り起こしも進んでいる。フェミニンなドレスから、シースルーのレイヤード、レース素材、さらに天使の羽根そのもの――もの憂げで柔らかなエッジのルーツをたどると、コクトー・ツインズ(Cocteau Twins)にまで行き当たる。82年にレーベル「4AD」からデビューした伝説のバンドは、確かに、今の気分に近いものを感じる。
また、大御所ポップ・スターの中では、ラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)の存在も避けて通れない。昨年リリースされヒットした「Say Yes To Heaven」は、その曲名や曲調も含めて「ポスト・エンジェルコア」の美学を象徴している。特にテンポを速めたSped UpバージョンがTikTokで広くバイラルしたが、彼女のボーカルがより一層高く浮遊しているように聴こえる点で、「エンジェルコア」の美学から大きな支持を得ているのも納得がいく。
日本での「エンジェルコア」のトレンド
そして日本でも、「天使界隈」といったキーワードや天使のモチーフが多用される昨今、やはり「エンジェルコア」と近い美意識が流通しているのは間違いない。国内の場合は独自のネットカルチャーやストリートカルチャーからの影響もあり、やや異なる文脈を持っているが、例えばTohji(トージ)やnyamura(にゃむら)がたびたび天使をモチーフにしてきた点は重要だろう。