<神戸児童殺傷事件> 元少年の手記「絶歌」を犯罪学の視点から読む
同種の事件をどう防ぐか
では、そうしたトレーニングは、いつ、だれが行うのか。元少年Aと同じような少年少女を救うためには、悠長に構えているわけにはいかない。最近でも、長崎県佐世保市の高1同級生殺害事件や名古屋大の女子学生による殺人事件は、神戸連続児童殺傷事件と類似したケースだ。 これらの事件の共通点を探っていくと、前兆としての問題行動に行き着く。しかし、そうした事案はバラバラに処理され、時間軸で分析されることはほとんどない。関係機関によるチームも、その都度編成されては解散する会議スタイルの組織だ。これでは、情報の蓄積や手法の開発は期待できず、ともすると責任のなすり合いや足の引っ張り合いにさえ陥りかねない。 対照的に、英国の「少年犯罪チーム」は常設常駐の多機関連携の独立組織である。警察官、ソーシャルワーカー、保健師、教師、保護観察官、臨床心理士などが、一つ屋根の下で継続的な活動を展開している。これなら、データの蓄積やスキルの開発も可能だし、少年問題の窓口が一本化されているので、悩みを抱えた親も相談しやすい。このように、きめ細かな対応ができる体制を整えて初めて、非行の早期発見と的確な支援介入が可能になるのである。日本版「少年犯罪チーム」の創設が待たれる。 ----------------- 小宮信夫(こみや のぶお) 立正大学教授(社会学博士)。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長。著書に、『犯罪は予測できる』(新潮新書)など。公式ホームページ「小宮信夫の犯罪学の部屋」