ヴァンクリ、シャネル、ショパール…レディースの時計、「大人かわいい」がおすすめ
■シャネル「プルミエール リボン」
実は今回、大人かわいいをテーマに決めるきっかけとなったのが、シャネルの「プルミエール リボン」でした。 そのルーツは、1987年にオリジナルモデルが誕生し、2022年に復刻を遂げた「プルミエール」です。 パリのヴァンドーム広場や香水「シャネル N°5」のボトルストッパーをイメージした八角形のケース、黒を基調としたたたずまいといった、プルミエールのオリジナルモデルのDNAを受け継ぎつつ、縦19.7×横15.2mmという小ぶりなケース、クチュールリボンのような細身のストラップによって、より大人かわいい表情を宿すのが「プルミエール リボン」です。 2023年秋に、初めて登場したステンレススチールモデルを紹介する記事を書いたところ、数人の女性から「実際購入したいのだけれどどう思う?」と相談が舞い込みました。彼女たちは、それこそケース径40mm前後のジェンダーニュートラルな時計を早い時期から取り入れてきたようなハンサムウーマン。この華奢(きゃしゃ)でフェミニンな時計に興味を持ったのは意外でした。そして口をそろえて、こう言ったのです。 「大人になった今、なぜかとても強くかわいいものに引かれるの……」 ケースのサイズ感や本当にベルベットのような感触の細身のラバーストラップは、まさに枕草子の「何も何も、小さきものは、みなうつくし」が至言であると教えてくれるかのよう。それでいながら、シャネルを象徴するブラックのミニマムな色彩によって過度に甘くなりすぎず、絶妙なバランスを奏でます。
■ショパール「ハッピースポーツ」
「ゼンマイ女子」というこの連載で大人かわいいを論じるとき、絶対に外せないのが、ムーブメントを自社一貫生産できるマニュファクチュールであり、私たちをうっとり夢の世界へと誘う華麗なジュエラー、ショパールの「ハッピースポーツ」です。 「文字盤とサファイアクリスタルの間で、台座から解き放たれたダイヤモンドが自由に舞い踊る」という、前代未聞のジュエリーウオッチが誕生したのは1993年のこと。まさに唯一無二の意匠は世界中の女性たちの憧憬を集め、愛され続けてきました。 手首を動かすたびに予測がつかない動きをするダイヤモンドを見ていると、自然と笑みがあふれて……。ここまで幸福感を与えてくれるタイムピースは、ほかにはないでしょう。 誕生から30年以上の間、毎年のように新たなバリエーションを発表してきた「ハッピースポーツ」には、年々自動巻きムーブメントを搭載した機械式モデルが増え続けています。まさに「マニュファクチュール」と「ジュエラー」のふたつの顔をもつ、このブランドを象徴するタイムピースと言えるでしょう。 ムーブメントにもこだわる女性が増えている現代のニーズと、かわいいものに引かれる女心、その両方を満たすハッピースポーツ。このコレクションの哲学「ジョワ・ド・ヴィーヴル(生きる歓び)」を体現する幸福なオーラが、強い意志を持ちながらもしなやかに生きる現代女性を優しく包み、人生を豊かに彩ってくれます。 ヴァン クリーフ&アーペル、シャネル、ショパールと、異なる魅力を持つ大人かわいいタイムピース。それぞれ個性は違うけれど、共通しているのは、デザインの核やメゾンのフィロソフィーがブレることなく一貫し、輝き続けているということです。それは、いわゆる「名品」の条件。 細やかな進化を重ねながらも、確かな信念を持っている。成熟した大人である一方、かわい気もなくさない。これらのタイムピースのような女性がいたら、誰が見ても、ものすごく魅力的ではないでしょうか。 文:岡村佳代(ウオッチ&ジュエリージャーナリスト)
岡村佳代
学生時代から執筆活動を開始。女性向け本格時計のムックに携わったのをきっかけに機械式時計の魅力に開眼。本格時計に関心が薄かった女性にその魅力を伝えるべく、女性誌などを舞台に活躍してきた。高級ブランドが集まるスイスの時計フェアを中心に世界での取材経験も豊富。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。