民主党が勝つのは「共和党がコケた時だけ」 南北戦争から続いた、大統領選のジンクス
絶頂の中での破局
"破綻"が翌年に迫った1928年の大統領選でカルビン・クーリッジからハーバート・フーヴァーへとバトンタッチされましたが、共和党政権とその政策方針は維持されます。クーリッジは、最後の教書で自らの政治を自画自讃し、 ── 私は現状に満足し、そして将来を楽観している。 ...と述べたかと思えば、彼からバトンを受けたフーヴァーもその所信演説で高らかに宣言します。 ──我が国は過去いかなる国も成し得なかった貧困に対する最終的勝利を目前としている! 我が国の将来には何の不安もなく、希望に満ち溢れている! アメリカ合衆国はこれより"永遠なる繁栄"を謳歌するであろう! この先の歴史を知る我々には、半年後に迫った"破綻"を目前にしてのこの言葉は滑稽ですが、彼自身はまさに人生の絶頂にあったでしょう。 しかし、フーヴァーの無能ぶりはすぐ後ろに迫りくる"破綻"の跫音にまったく気がつかなかったことではなく、実際に"破綻"が起こりそれを目の当たりにしてもなお、それが"破綻"だと理解できなかったところにあります。 実態からかけ離れた株価は、彼の所信演説の翌月(4月)からすでに小刻みに下落しはじめていましたが、当時の高名な経済学者(※7)は「まだまだ上がる!」と主張し、フーヴァーもこれを放置、やがて「暗黒の木曜日(10月24日)」を迎えることになりましたが、「古典派経済学が正しい」「経済は自由放任一択」と信じて疑わないフーヴァー大統領はその現実を目の当たりにしてもなお、有効な経済策を打ち出そうとしません。 ──なに、ちょっと"風邪"を引いただけだ。アメリカ経済は依然盤石、"風邪"など放っておけばすぐに治る。 彼が実施しためぼしい対策といえば、「スムート・ホーリー法」「フーヴァー・モラトリアム」くらいのものでしたが、時代遅れとなった古典派経済学に基づく政策はむしろ経済を悪化させるだけに終わりました(※8)。 したがって経済は悪化の一途を辿り、銀行だろうが上場企業だろうがお構いなしにバタバタ倒れ、町には失業者・ホームレスがあふれ、破産者・自殺者の数など数えきれず、経済の悪化は彼が退陣する1933年3月までつづくことになります。 [注釈] (※7)アーヴィング・フィッシャー。彼自身も自分の資産を株に注ぎ込んでおり、破産寸前に陥っています。彼のこうした強気発言は「保身(株価が下がれば自らの資産に損失が出る)」という側面もあったかもしれません。 (※8)政界も財界も「こたびの破綻が古典派経済学の不備による」という認識がまったくなく、あくまで「古典派」のやり方で経済対策を立てるため、はなからうまくいくはずがありませんでした。