「推しの子」と「すしのこ」をコラボさせた新社長の決断 タマノイ酢が若返らせたロングセラー
SNSのリサーチを習慣化
播野さんはマーケティングや商品開発に取り組む一方、商品自体の魅力と人間力のかけ算が営業力につながると考えています。得意先や消費者との関係性を作り、「一緒に仕事をしたい」、「この商品を買いたい」と思ってもらえることは、商品開発と同じように重要と捉えました。 「提案をする際、もちろん『他社にない商品があります』ということをアピールすることは欠かせません。ですが、保険や車のセールスと同じく、商品のクオリティーが拮抗している場合は、関係性の深い得意先から購入するケースも多いでしょう」 企画部ではSNSでのリサーチを日常的に取り入れ、習慣化させています。自社商品に関する意見や要望などを見かければ、その都度部内で共有。特に、新商品の情報を発信した時はサーチにより力を入れています。 「SNSは怖い部分もありますが、うちみたいな規模の会社でもSNSを味方につけることで、今までにはなかったチャンスを作れる時代になりました。しっかりファンを作っていくことは大きなテーマになっていると思います」
コラボの裏に「ストーリー」
播野さんは今までとは異なる客層や市場に目を向け、海外や若者世代向けのマーケティングに力を入れ始めました。 その一環として、播野さんが先頭に立って進めたのが、世界的に広がった大人気漫画「推しの子」とのコラボレーション企画です。以前から、ネット上で「すしのこ」とタイトルが似ているという声が広がっていたことから実現。社長就任から間もない2024年4月4日、企画を発表しました。 漫画の人気キャラクター・有馬かなが「すしのこ」を推しているパッケージデザインが目を引きます。発売開始以来、61年間変えることのなかったデザインに初めて手を加え、タマノイ酢の公式X(旧ツイッター)で発表したところ、289万インプレッション(2024年5月現在)を獲得しました。 播野さんは昔から、タレントや作品を広告塔として起用する場合、「なにかストーリーが必要」だと考えていたといいます。 「先代には単なる短期的なコラボではなく、長期ビジョンであることを示し、『企画を通じて何を目指すのか』という点を訴えました。単純にくっつけるだけでは単なるコラボレーションです。『実際に愛用している』『昔から話題になっていた』など、なにかストーリーやフックがないと、商品やサービスの良さは広がらないし、何より面白くないと感じていました」 播野さんは「推しの子」とのコラボを発表したプレスリリースで、次のような決意を示しました。 「社長就任にあたり、『繋がりを原動力に未来の可能性に挑戦』という経営方針を新たに打ち出しました。今回の施策は、その経営方針に基づく初の取り組みです。(中略)本企画を通じて、【推しの子】ファンの皆様をはじめ、普段酢飯を作る機会の少ない若い世代の方々にも、手軽で簡単に酢飯が作れる『すしのこ』を手に取って頂き、おいしさを実感してもらえたらと願っております」 コラボ発表から1カ月で、「すしのこ」の売り上げは、昨年対比で大幅に伸びたといいます。2024年6月以降、「推しの子」とのさらなる企画を発表し、コラボ実現の詳しいストーリーなどを明らかにする予定です。