少子化を生きる ふくしまの未来 第1部「双葉郡のいま」(3) 教育移住 「ゆめの森」に集う 特色ある学び共感呼ぶ
福島県大熊町大川原地区の町営住宅に2021(令和3)年から暮らしている横山純一さん(73)の表情は明るい。「散歩中に子どもとすれ違うし、学校から元気な声が聞こえてくる。将来を担う世代が身近にいるのはいいね」と、地域に活気をもたらす存在を歓迎している。 子どもを増やすために充実した教育環境は欠かせない。その実例が2023年夏に地区内の一角に完成した義務教育施設「学び舎(や) ゆめの森」だ。東京電力福島第1原発事故に伴い、会津若松市に移転していた大野小と熊町小、大熊中の3校を統合し、認定こども園も設置した。通う子どもたちの数を増やしている。 大熊町の人口は東日本大震災と原発事故まで増加傾向にあった。福島第1原発の立地に伴う固定資産税や交付金で得られる潤沢な財政を背景に、子育て支援も充実していた。2010(平成22)年の国勢調査によると、年少人口(14歳以下)は1848人、人口に占める割合は16・1%と全59市町村で最も多く、2008~2012年の合計特殊出生率は「1・77」で、県内トップだった。
町立幼稚園に長年勤めてきた「ゆめの森」こども園の松本恵子教諭(60)は「原発関連の職場に勤める親や、共働きの家庭が多かった。当時は意識していなかったが、今にして思えば町の規模の割に子どもが多かった」と振り返る。 しかし、「ゆめの森」の整備計画が動き出した2019年度、避難中の小中学校3校に通う児童生徒数は24人まで減っていた。校舎の新設には慎重論もあった。開設準備に当たった木村政文元町教育長(65)=現鹿児島県肝付町教育長=は「既存校舎の活用では魅力ある教育をアピールできない。将来の町を担う子どもの帰還を促すためには、どうしても新たな特色を備えた拠点が必要だった」と開設に込めた思いを述懐する。 「ゆめの森」の昨年12月現在の児童生徒数は68人となった。震災前の約1300人には遠く及ばないものの、現校舎を使い始めてからの約1年4カ月間で2・6倍に増えた。 真新しい校舎に始業・終業のチャイムは鳴らない。授業の進め方も教員と子どもが話し合って決める。自主性や個性を重んじる教育は関心を集め、郡内をはじめ県内、首都圏など県外からの入学や転入の問い合わせが相次ぐ。68人の約6割は町外からの移住世帯の子どもだ。