「親父、こんなに苦しかったのか」就職先の銀行で知った家業の低い評価 大人気の京都洋菓子ブランド「マールブランシュ」を継いだ3代目の決意
◆「野菜農家じゃないんだから」それでも人を押し出す
――製造部門を経て、北山本店などの店長を務められたのち、2013年にマーケティング室に移られます。そこで感じたことはありましたか。 現場のスタッフは非常に丁寧なもの作りをしているし、フードロスに対しても厳しい目を持っている。でもメディアに取り上げられるのは「美しいデザイン」「京都らしい洋菓子は他にない」というブランディングばかりでした。 製造・販売スタッフ共に他社に負けないパワーがあるのに、現場の力をなかなか見てもらえない。「こんなに頑張ってくれているのに!」ともどかしさが募る中、クラフトマンシップが注目されていたこともあり、「人」を押し出したいと提案しました。 ――どのような施策を展開されたのでしょう? 商品開発者の写真やケーキ職人の名前をプライスカードに入れました。提案時は部長から「野菜農家じゃないんだから」と言われましたが(笑)、その後「やってよかった」と評価してもらえました。 現在も「人」は経営理念の中心です。祖父も父も「大家族主義」を掲げ、従業員と温かく確かな関係を結びながら社を率いてきました。 手前味噌ではありますが、我が社の「人」は強い。2018年に常務取締役になってからの6年は、「現場力をいかに経営の競争力にできるか」を使命として職務に取り組んできました。
◆「10年後、社長になってもらう」
――2020年秋に京都市の本社敷地にオープンした、カフェや工房の複合施設「ロマンの森」のプロジェクトリーダーを担当されたそうですね。 発端は2013年、父から「10年後の2023年、社長になってもらう」と告げられたんです。そこに至るまでのプランを父が組んでくれ、そのひとつが「大きな投資を経験しておく」ことでした。2014年に本社建て替えの案件が浮上したので、私がリーダーを任されました。 ――どういった点に尽力しましたか? 「誰のための店なのか」という軸を明確にするプロセスにはかなりの時間をかけました。はじめは「多数の集客を望める、テーマパークのような超広域店」という漠然としたイメージだったのですが、プロジェクト開始から1年半の討議を経て、「地域の方々に繰り返し来てもらえる、その土地に根差したお店にしよう」と決断しました。