「みんななかよく」50歳になったハローキティが伝え続ける、現会長の「戦争反対」への強い思い
「みんななかよく」が世界に向けて可視化
国賓として天皇皇后両陛下を迎え、バッキンガム宮殿で行われた晩餐会のスピーチの一節である。ハローキティは1974年11月1日が誕生日という設定だ。最初、きょとんとされていた天皇陛下はチャールズ国王陛下がハローキティという名前を発すると、ひときわ楽しそうに笑っていらっしゃった。 チャールズ国王陛下らしいユーモアにあふれたスピーチは「株式会社サンリオ」のシンプルすぎるほどシンプルで、だからこそ実現が難しい企業理念「みんななかよく」に込められたメッセージが世界に向けて可視化された瞬間でもあった。 チャールズ国王陛下と天皇陛下がサンリオの企業理念をご存じだったとは思わない。しかし、晩餐会に出席したゲストはもちろん、スピーチをメディアで聞いた世界中の人々がハローキティを思い浮かべ「みんななかよく」、たとえ一瞬であっても、この困難な社会情勢の中で、平和なひとときを過ごしたのだ。たったそれだけと侮ってはいけない、大きな価値があったと思う。 しつこいようだが、国賓をもてなす晩餐会のスピーチで重要なのはパートナーシップ、すなわち、お互いの友情を確かめ合うのが目的だ。推敲されたに違いないスピーチ文で、ポケモン、宮崎駿とともに、皆さんご存じという前提でハローキティというアイコンがその重役に選ばれ、宮殿内を温かな空気で満たした事実は、とても重要である。
「いちごの王さま」が伝え続けていること
「いちごの王さま」こと、サンリオ創始者で現会長の辻信太郎さんは、サンリオの機関紙『いちご新聞』でこの一件について触れ、「(UNICEF大使だったことを)チャールズ国王に知っていてもらえて、キティちゃんはとても嬉しかったことでしょう」と喜んでいた(『いちご新聞』2024年9月号)。辻会長はきっと感無量だっただろう。なぜなら、辻会長は自身の辛い戦争体験から「みんななかよく」という企業理念を掲げ、戦争は絶対に起こしてはならないと言い続けている人だからだ。 一部ではよく知られているが、終戦記念日に合わせた『いちご新聞』では、いちごの王さま=辻会長が巻頭メッセージで戦争がいかに悲惨でおぞましい所業であるかを書き綴っている。 たとえば、今から17年前の2007年に私は『AERA』(朝日新聞出版)の雑誌を紹介する連載コラムで『いちご新聞』をとりあげてこう書いていた。 …………………………………………………… ――サンタの存在を信じていた子供時代は遥か彼方、すっかりスレッカラシになった私が「素直な心」を取り戻したい時、手にとるのはサンリオの月刊紙「いちご新聞」、略称「いち新」である。三十路をとっくに過ぎた女が「いちご新聞ください」とサンリオショップで言う図は相当しょっぱいが、「娘さんに買ってあげるのね」と思っているであろう店員さんが「プレミアム」と呼ばれるオマケをペタンとショップ袋に貼ってくれるのをありがたく受け取って、大事にバッグに仕舞う。 最初に読むのは2pの「いちごの王さまからのメッセージ」だ。2007年9月号で、いちごの王さまはこう言っている。「戦争が繰り返されないため、終戦記念日は平和について真剣に考えてみましょう」。そして、自身が高校生だった戦争中、爆撃に遭った故郷、甲府の惨状について切々と書き記すのである。ハローキティを媒介に、世界中で「夢」と「かわいい」を売りまくるサンリオを生んだ、いちごの王さま=辻信太郎社長は現在、御歳79歳。今や貴重な戦争体験者なのであった。 砂糖菓子のようにフワフワ甘いサンリオ風味で埋め尽くされた「いち新」は、「かわいい」を形にしたアイテムがギッシリの物欲ワールドであると同時に、全体的に善意に満ちたメディアである。最近はエコにも熱心で、「(サンリオの)マイボトル所持」を推奨したりもする。さすが商売上手だが、それでも、柔らかい心に向け、真正面から「良心」とも言うべき正論を唱え続けるのは、悪いことじゃない。「憲法9条」を持つ国に生きる、いちごの王さまのメッセージは本気なのだ。―― …………………………………………・・