トランプが勝利したのは「ポッドキャスト」で若い男性の心を掴んだためだ
玉座に座るのはタレント
放送局は最新鋭のスタジオ、中継車、送信機、光ファイバーケーブル、人材などに巨額の資本を投じている。一方、ポッドキャストにはそういった設備は一切必要ない。かつてその設備投資は、放送局とその株主たちにとって、メディアの利益の大部分を確保するための防壁となっていた。彼らは制作手段を支配していたのだ。しかし、その防壁は今や突破されてしまった。 わたしがCNNやその他のテレビ局に出演する際は、熟練の技術スタッフを大勢そろえたスタジオに赴く。局は彼らの給与や福利厚生を負担し、オフィスやおやつまで提供している。まともなテレビスタジオの設置には軽く40万ドルはかかる。しかも非効率的だ。CNN+でのわたしの番組(苦い思い出だ)は、十数人のスタッフが1週間かけて21分のコンテンツを作り上げた。素晴らしいコンテンツだったが……それにしても。 今やわたしのスタジオは、気取ったサッカー選手の化粧ポーチのようなものだ。費用は1000ドルもかかっていないはずだ。技術スタッフのドリューが組み立ててくれたもので、どこへでも持ち運べる。ブロードバンドか、せめて携帯電話の電波さえあれば、そこがすぐにコンテンツを制作できるスタジオになる。わたしのポッドキャストの3分の1は自宅スタジオ以外の場所で録音していると思う。 この効率性を考えてみてほしい。週に3本のポッドキャストのホストまたは共同ホストを務め、さらに多くのポッドキャストにゲスト出演することができる。このような機動性は、コロナ禍以前には物理的に不可能だった。さらに、ネット中立性のおかげで、わたしが出演するポッドキャストは、誰でもいつでも聴くことができる。理論上、デジタルデバイスを持つ世界中の52億5000万人全員にリーチできない理由はないのだ。 放送やケーブルテレビの世界では、常にプラットフォームがタレントより大きな存在だった。ポッドキャストではそれが逆転している。ポッドキャスト企業にはほとんど持続可能な企業価値がない。重要なのは設備投資やインフラではなく、タレントなのだ。だからこそ、個人のポッドキャスターの多くが金持ちになっている一方で、ポッドキャスト企業の株主はそうはなっていない。 必要なのはパソコンとインターネット接続だけだ。テレビやラジオなどの従来のメディアに参入しようとする時のような、スーツたちの設ける障害物コースを走る必要はない。これも広告主がポッドキャストを好む理由の一つだ。タレントの取り分を減らそうとする者も、広告主の懐に手を突っ込もうとする者も少ないため、広告費の投資効率が高くなるのだ。 設備投資が少ないということは、週2本のポッドキャスト制作にかかる費用(プロデューサー2、3人とパートタイムの音響エンジニア)を回収できれば、莫大な利益を生み出せるということだ。わたしが手がけるポッドキャスト番組群(『Prof G』『Prof G Markets』、『Raging Moderates』の3番組)は、2025年には約1000万ドルの収益を見込んでいる。 わたしたちはプロデューサー5人、アナリスト2人、技術ディレクター兼音響エンジニアを雇用している。従業員1人当たり100万ドル以上を稼ぎ出すビジネスは稀だ。わたしがカラ・スウィッシャーと共同ホストを務める『Pivot』は、さらに少ない人員でより多くの収益を上げている(注:配信パートナーのVoxが広告営業を担当)。 初期費用を回収して軌道に乗るポッドキャストは──そしてそれを達成できるのはごく少数だが──極めて収益性の高いビジネスとなる。最高なのは何か? それは、素晴らしいチーム、中には10年以上一緒に働いている仲間たちに恵まれ、わたしは週にたった8~12時間しかポッドキャストに時間を使わなくて済むことだ。時間効率は極めて高い。広範なリーチと低いランニングコストという組み合わせは、広告主とタレントの双方にとって、少ない投資で大きな見返りをもたらすのだ。 勝者がほぼすべてを手に入れる すべての条件が揃い、ポッドキャストは急上昇の軌道に乗っている。 しかし、ほとんどのデジタルコンテンツと同様に、ポッドキャストも勝者総取りの世界だ。誰もが誰にでもアクセスできるからこそ、そうなのだ。膨大な数のポッドキャストのなかで、リスナー数で最上位に位置するごく少数の番組が、ほぼすべての広告収入を獲得している。 ある推計によると、毎週コンテンツを配信している60万のポッドキャストのうち、上位10本だけで収入の半分を占めているという。つまり、ポッドキャストでスタッフに良い給与を支払い、他の仕事という選択肢を持つホストの関心を引き続き維持できるビジネスを築くには、リスナー数で上位0.1%に入る必要があるということだ。