「スイングバイIPO」で東証グロース上場のソラコム、LUUPやポケトークも採用するMVNOの戦略とは?次の一手はコネクテッドカー(石野純也)
3月26日、MVNOとしてIoT向けプラットフォームを手がけるソラコムが、東証グロース市場に上場しました。 この記事の他の写真はこちら ビジネスモデルや業績への評価は高く、本稿を執筆している28日も前場はストップ高に。870円だった公開価格に対し、28日の終値で1773円をつけており、すでに株価は2倍以上に上がっています。 ソラコムは2015年に創業したスタートアップ。通信を制御するためのコアネットワークをアマゾンのAWS上に構築し、しかもそれをユーザー自身がある程度制御できるようにしたことで業界に衝撃を与えました。 現在はネットワークのオープン化が進み、クラウド上に5Gのコアネットワークを置く大手キャリアが増えてきたものの、約9年前の2015年にそれを実現したインパクトはかなり大きかったことを覚えています。 当初は独立系のMVNOとしてドコモ回線を利用していたソラコムですが、2年後の17年にKDDIが株式を取得。KDDI回線に加え、海外に加入者管理機能を置いたフルMVNOとしてもサービスを展開しており、回線数は600万を超えています。 とはいえ、KDDI傘下に入る直前までは約8万回線と小規模な事業者でした。KDDIグループの連結子会社になることで、大型案件を次々と獲得でき、この規模まで成長できた格好です。
上場後は、KDDIの持ち株比率が下がることで、子会社から持分適用会社になり、資本上、その関係性はやや薄くなります。ただし、これは関係が悪化したからというわけではありません。ソラコムは、いったんKDDI傘下に入り、その中で力をつけて上場し、さらに規模を大きくしていく戦略のことを「スイングバイIPO」と呼んでいます。 スイングバイとは、宇宙機が惑星などの引力を使って加速すること。KDDIを巨大な惑星に例え、その力でより遠くまで飛んでいける力を身に着けたというわけです。 スイングバイIPOという言葉を生み出した背景には、KDDIの高橋誠社長からの要望があったようです。ソラコムの玉川憲社長が、高橋氏にIPOも含めた成長戦略を相談した際に、「外から見ると、ソラコムが出ていくことになるのでケンカでもしたのかとも思われる。ポジティブなコンセプトを考えてほしいと言われた」と言います。 出資比率が下がって持分適用会社になったあとも、KDDIとソラコムは協力関係を維持していく方針。ソラコム側も、「持分適用会社として緊密な関係を作りながら、スイングバイIPOの第3章をご支援いただく」(玉川氏)としています。 IPOでグループから離脱するのは事実ですが、ケンカ別れではないことを示すために玉川氏が考え出したのがスイングバイIPOという概念だったわけです。 KDDI側も柔軟性のあるソラコムのプラットフォームを自身のネットワークに取り入れ、IoTの回線数を大きく伸ばしてきました。 KDDIの高橋氏は、ソラコムを取り込んだことで「高い安定性を求めるコネクテッドとスピードを求めるコネクテッドの両方にアプローチできているのがプラスになっている」と語っています。 実際、大手キャリアのIoT回線と言えば、大企業が中心。スタートアップやそれこそ個人レベルで何か作りたいようなときに、気軽に回線を調達できるような体制はありません。 これに対し、ソラコムは冒頭で挙げたように、個人が1回線から契約でき、実証実験の回線としても簡単に使えます。 門戸が広いことでスタートアップでの利用も多く、電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」や、翻訳機の「ポケトーク」、さらには子どもの見守りデバイスであるMIXIの「みてねみまもりGPS」など、コンシューマーにもおなじみのIoTデバイスにもソラコム回線が採用されています。 このようなスピード感や柔軟性を取り込めたのが、KDDIにとってのメリットだったと言えるでしょう。
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