大阪「咲くやこの花館」25周年 ── 進化する植物園
今月1日に開館25周年を迎えた植物園「咲くやこの花館」(大阪市鶴見区)で、多彩な記念イベントが開催されている。同館は1990年開催の「花の万博」のメーンパビリオンとしてオープン。久山敦館長は「植物が進化するように、植物園も進化しなければならない」と、植物の栽培方法や同館の運営方法に工夫を凝らす。
「花の万博」で話題だった青いケシは健在
「咲くやこの花館・進化の道筋」と題された特別ガイドツアーがこのほど、久山館長の案内で実施された。参加者の反響がもっとも高かったのは、館内で展示する植物を計画的に栽培するバックヤードの見学だ。 久山館長は「植物の栽培で大切なのは目に見えない世界」と話す。入館者にいつでも高山植物を観賞してもらうため、高山植物を一年中咲かせる独自の環境制御栽培システムを導入している。 高山植物が寒期に休眠する性質を利用し、毎年6000鉢の高山植物を、いったん氷点下3度の冷凍庫へ。その後、開花させる時期に応じて、気温が7度(夜間3.5度)、12度(同7度)、15度(終日)と、設定温度が異なる3基の人工気象室「ファイトトロン」に移し替えて、開花を促していく。 「徐々に温度を上げることで、植物に春が近づいてきたと勘違いして目覚めてもらう。植物によって開花までの期間や水分要求量が異なるため、職員の細心の注意が欠かせない」(久山館長) 栽培システムを見学した女性参加者のひとりは「なんで同じ花が一年中咲いているのが、ようやく分かった。ほんまにたいへんやなあ」と感嘆の声をあげていた。「花の万博」で話題を集めた高山植物青いケシは、いまなお健在。青いケシの研究家から貴重な新種の種子も譲り受け、栽培している。
文献に頼り切らず「失敗から学ぶ」
植物栽培は未知の試練の連続だ。たとえば砂漠で長生きする植物キソウテンガイ(奇想天外)。同館では国内の植物園で最大級のキソウテンガイを展示している。 「キソウテンガイはほとんど水分を求めないようにみえるが、地中深くまで根を伸ばして水分を吸収しており、水分を好むことが分かった。一方、食虫植物のある仲間は館内でなかなか捕虫用のつぼを付けなかったが、水分補給を抑えるとつぼを作るようになった。既存の文献情報に頼り切らず、失敗から学び、柔軟に対応する発想が求められる」(久山館長) ときに想定外の幸運な展開もある。マダカスカルのフニーバオバブは花博直前の1989年に導入されたが、到着時、根元から腐っていた。やむなく腐った部分を取り除き、挿し木による延命を試みた。樹木の高さは3メートル。常識外れの巨大挿し木だったが、幸い活着した。 さらに17年後の2006年には、日本で初めて開花に成功。以来、夏の開花予定日には、申し込み制で観察会を開くほどの人気樹木に成長した。文字通り長年の栽培努力が開花したわけだ。