美輪明宏「私の中で〈信仰〉と〈宗教〉は別のもの。〈信仰〉は、自分の内なる善の部分を掘り起こすよう努力すること」
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 4月号の書は「信仰」です。 【美輪さんの書】美輪さんの凛とした文字「信仰」 * * * * * * * ◆「信仰」と「宗教」 私が言うところの「信仰」とは、ある特定の宗教を信じることとは違います。人は誰でも、自分のなかに善なるものと悪なるものの両方を持っています。悪ではなく、自分の内なる善の部分を掘り起こすよう努力する。それが、私が考える「信仰」です。 信仰を持てば、自分が悪いことをしそうになったとき、もうひとりの自分がたしなめてくれます。また、生きていれば、人を憎んだり、意趣返ししたくなったりすることもあるでしょう。 そういうときも、「いけない、いけない」と軌道修正できるはず。そうやって己の精神を神や仏に近づけるよう高めていく作業を繰り返すことが、修行であり、信仰だと思います。 一方、宗教は、神様や仏様と人間の間に立つ卸問屋のようなもの。「こういう考え方や方法がありますよ」「こんなグッズもあります」といった商いをする企業にたとえてもいいかもしれません。優良企業もあるけれど、なかにはインチキなブラック企業もあるでしょう。ですから、よくよく調べたほうがいいと思います。
◆善なる自分を見つめ直して それより私は、自分自身が「自分」を救う信仰のほうをお勧めします。そのためには、理性を持つことが大事。 「悲しい」「悩み苦しんでいる」「憎らしい」「愚痴りたい」など、感情的に心が煮えたぎっているときは、理性でいったん鎮めて、どのようにすればよいか冷静に考えるのです。 私は気性が激しいほうでしたから、若いころは、感情に任せて怒ったり人を憎んだりもしました。そして、そういう生き方は心身ともに負担が大きかったのも事実です。でも己を見つめ直し、自分の内なる善きものを育てる習慣を続けた結果、生きるのがだいぶ楽になりました。 おかげでこの歳まで、この世を穏やかな気持ちで過ごさせていただいています。 ●今月の書「信仰」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏
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