米国は「戦争」「核ICBM」回避したけど……北の脅威が消えない日本
「中距離核」「戦争」どちらもリスクの日本
日本の場合は、拉致問題という最優先問題がありますが、核問題に限ってみれば、韓国と米国の間のような微妙な状況にあります。 日本の安全保障にとって、北朝鮮の脅威とは、ほぼイコールで準中距離核ミサイルです。なので、核ICBMの凍結はほとんど関係ありません。しかし、仮に中距離核が長期にわたって温存される状況は、致命的な脅威になります。したがって、非核化が遅々として進まず米朝交渉が続いていく状況が固定化すれば、きわめて不利益になります。 しかし、だからといって、米朝が決裂して戦争になるのも、たいへんなリスクになります。核ミサイルが日本に飛んでくる可能性があるからです。 もっとも、核ミサイルで日本が壊滅的な被害を受けるか否かは、微妙です。北朝鮮が現在、何発の核弾頭を保有しているかは不明ですが、数十発ぐらいとみられています。戦争となれば、北朝鮮の主な攻撃目標は在韓米軍と韓国軍となりますので、激戦の中で北朝鮮が虎の子の核ミサイルをそれほど多く日本に撃ち込んでくることは考えにくいでしょう。また、戦争となれば、敗北した北朝鮮が最後の報復として発射する可能性、あるいは無秩序状態の混乱下で発射される可能性がありますが、それも複数発という可能性は考えにくいでしょう。 しかも、自衛隊はすでにミサイル防衛のシステムを導入しています。ミサイル防衛でミサイルを完全に迎撃できるか否かは、やってみないと分かりませんが、事前に迎撃準備に入っていれば、理論上はかなりの確率で可能でしょう。 したがって、日本は安全保障上、韓国ほどは切実に戦争回避が絶対だとはいえない状況にあります。ただし、戦争になった場合の核の脅威はリアルなものですので、タカをくくっていいレベルのものでもありません。日本に飛んでくる可能性はありますし、迎撃に失敗する可能性もあります。数発だったとしても核爆弾を被弾した場合の被害は、とてつもないものになります。 つまり、日本にとっては、核ICBM凍結では意味がなく、中距離核の廃棄が実現して初めて利益になるわけですが、そこに至る過程で米朝の交渉が決裂して米朝戦争になるのは、韓国ほど明確な致命的リスクではないものの、かなりのハイリスクには違いないということになります。 米朝戦争回避は日本にとっても非常に重要ですが、そのリスクは絶対に避けるべきなのか、あるいは日本にとって最大の脅威である中距離核を取り除くために、多少のリスクは覚悟して圧力強化を支援すべきかは、判断が分かれるところでしょう。 いずれにせよ、こうした日本の安全保障環境からすれば、今回の首脳会談は、戦争回避に向かったのはプラスになりますが、現状の核ICBM凍結以上に交渉が進まなければ、日本への核の脅威が残るという意味で大きなマイナスであり、今後、米国との交渉で北朝鮮が中距離核を廃棄すれば、きわめて大きなプラスになります。 ただし、現時点では残念ながら、北朝鮮が中距離核を廃棄して、日本への核の脅威が除去される流れとは、かなり程遠い状況にあります。
-------------------------------------- ■黒井文太郎(くろい・ぶんたろう) 1963年生まれ。月刊『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長等を経て軍事ジャーナリスト。著書・編書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』『北朝鮮に備える軍事学』(いずれも講談社)『アルカイダの全貌』(三修社)『ビンラディン抹殺指令』(洋泉社)等がある