米国は「戦争」「核ICBM」回避したけど……北の脅威が消えない日本
もちろん米国にとってのマイナス面もあります。このまま非核化の具体的措置が遅々として進まなければ、「中距離核」が温存されることになります。将来的に戦争になったり、あるいは北朝鮮内部が内乱などで無秩序状態に陥ったりした時、韓国、日本、グアムあたりは核の脅威に晒されることになります。韓国にも日本にも米軍や民間企業など、米国人は多数いますから、米国にとって他人事ではありません。 また、延々と交渉が続けば、その間に北朝鮮は新規の技術開発を密かに進め、核戦力を強化していく可能性もあります。これも将来的に北朝鮮の脅威を高めることになります。実際、金正日時代の北朝鮮が行ってきたのは、この手法です。 米政府が北朝鮮と非核化交渉をどう進めるかは、他にも東アジア全体の安全保障、イラン核問題への影響、大量破壊兵器拡散問題、さらには米国内政局など、多くの案件を考慮した上で政策が選択されることになりますが、直接の対北朝鮮に限った安全保障で考えても、米国にはこうした利益・不利益があります。 その中で、今回の首脳会談では、米国は「戦争回避」と「核ICBM凍結」を得たということになります。
“核より怖い”ソウル壊滅危機の戦争を回避
他方、韓国や日本はまた、米国とは安全保障の状況が違います。 韓国にとっては、絶対に避けなければならないのは、何といっても「米朝戦争」です。北朝鮮の核兵器も脅威ですが、それ以前に、通常兵力でも北朝鮮の長距離砲によって、国境に近い大都市圏のソウル首都圏が脅威下にあります。戦争が起これば、壊滅的な被害は免れません。 米国との交渉で北朝鮮が非核化されれば、韓国にとっては大きな利益ですが、仮にそうならずに現状維持に留まったとしても、戦争になった場合のデメリットの大きさを考えれば、冒険主義的な選択は困難です。 文在寅(ムン・ジェイン)政権の北朝鮮への接近がかなり突出していることは事実ですが、韓国の安全保障としては、万が一に備えて強力な戦力を構築し、米軍との同盟を強化するとともに、米朝の緊張緩和を支援するというのは、現実的な選択ではあります。 こうした韓国の安全保障環境からいえば、米朝首脳会談で戦争回避に向かったのは、メリットが大きいといえます。