花嫁を全力で笑わせる「道化」とは 岩手の「幻」の風習を訪ねた
道化はいま
あちこち取材しているうちに、公民館の役員をしている鈴木さんから封筒が届いた。中には、図解も交えて昔の婚礼を解説した手紙や、道化を撮影した写真がたくさん入っていた。後日、鈴木さんに会って話を聞いた。「太い絆を作り出す」。鈴木さんは道化の役割についてそう解釈してみせた。「道化そのものも面白いんだけど、その後にお茶飲みすんのが楽しくて。道化に参加した人たちの慰労会なんだけど、お嫁さんを見に来た人とか近所の人も入り乱れておしゃべりすんの。婚礼は、子どもからお年寄りまでみんなが集まる一大イベントだったんだよ」。鈴木さんはそう道化全盛期を振り返った。 だが、道化は現在ほとんど見られなくなった。大きな理由は、婚礼場所の変化だ。かつては家で開かれていたのが式場などに変わったことで、新郎の家に向かう花嫁行列がなくなり、道化の出番も消えた。式場で余興としてやることはあっても、路上でゲリラ的に出現する本来の道化とは違う。 震災の影響も大きい。地域住民が移住などでばらばらになり、道化をやる人たちが減ってしまった。 道化はこのままなくなってしまうのだろうか……。私は心配になったが、勇気づけられる動きがあることもわかった。例えば鈴木さん。地域の絆を強めるという道化の効果を、震災で打ちひしがれた地域の再生に利用できないかと考え、2015年、災害公営住宅入居者の歓迎会で道化を披露した。津波で家を失い、慣れない土地での生活に不安を抱いていた入居者たちはとても喜んだという。
道化をモチーフにした市のPR動画をつくった合同会社もある。被災地の支援活動をしている「みんなのしるし」(大船渡市)だ。前川十之朗社長(50)は「道化」を取り上げたことについて、「大船渡の魅力は人々の個性だと思ったんです。取材をしていくうちに、人々の個性が最も花開く場が結婚式であると気が付きました。地域のお母さんたちに話を聞くと、『道化』をしているときは本当に楽しかったねってみんな言うんです」と明かす。この春、新たに「道化」をテーマとした動画をYouTubeで発表する予定だ。