医療からも家族からも見放された中国農村部の老人たち…自分で墓を掘る者も【中国人「老後問題」の壮絶!】#3
【中国が抱える老後問題の壮絶】#3 「私の隣村で2人の老人が自殺した。1人は首を吊り、1人は川に身を投げた」──。先月末、こんな一文が中国のSNSに投稿された。日本では介護疲れを理由に配偶者を殺めてしまうなどのニュースを聞くことはあっても、自殺というのはあまり聞かない。しかし、中国では農村の老人が自死するケースが増えている。 【写真】「めざましテレビ」などで活躍した西田美歩さんは“介護タレント”に…きっかけは入籍と不妊治療 過去にはこんなケースもあった。老親の重体を知った都市生活者の息子が、仕事を休んで実家の農村に駆け付けた。だが、数日経っても息を引き取らない。 葬儀を出すつもりで帰省した息子が業を煮やして「まだ死なないのか」と話しかけると、老親はカッときたのか、農薬瓶を取り出して服毒自殺を図った。 自分で自分の墓を掘る老人もいる。湖南省の79歳の老人は、自分ががんになったことを知り、人に頼んで掘らせた墓に自ら潜り込んだ。死に装束まで着て、土中で手首を切って自殺を図ろうとした老人だったが、すんでのところで村人たちに引っ張り上げられた。家族への迷惑を懸念して自殺に及んだのではないかといわれている。中国でがん治療など難病は、高額な医療費がかかるためだ。 ■小説「楢山節考」を彷彿 湖北省のある村では69歳の老人が自殺した。シャワーで身を清めた後に殺虫剤を飲み、“冥土の通貨”といわれる紙銭を焼き、その場に倒れて息を引き取った。 「中国青年報」が10年ほど前に報じた記事だが、多くの読者が注目したのは「村では波紋が起きなかった。地元で自殺は正常であり、合理的であるとさえ考えられているためだ」という一文だった。一定の年齢に達した老人を山に捨てに行くという、日本の貧しい山間部の生活を描いた昔の小説「楢山節考」を彷彿とさせる。 湖北省武漢市出身の魏さん(仮名)は「湖北省の自殺率は中国でも最高水準といわれます。服毒、入水、首吊りはその3大手段。理由は家族の負担を減らすためなんです」と話す。 中国では都市に出稼ぎに行った若者は、そこで自宅を購入し、もはや農村には帰らない。老人だけの村はもはや珍しくなくなった。もとより、中国では貧困から来る飢えや病気を理由に、農村の老人の自殺は潜在していた。近年は「減少傾向にある」というのが建前のようだが、それはちょっと考えにくい。都市部に出稼ぎに出た労働者たちは“バブル住宅”を高値で買わされているためだ。 「高い利率で組んだ住宅ローン、親戚からの借金……。彼らは借りた金を返すだけで必死ですが、仕事さえ見つからない。農村に残した親の介護なんてとてもじゃないが無理」(魏さん) 2023年末、中国の60歳以上の高齢者人口は約2.9億人で、インドネシアの人口(約2.7億人)を超え、農村部の高齢者人口は1.2億人(2020年)で日本の人口に迫っていた。 医療からも家族からも見放された中国農村部の老人たち。あまりにも重すぎる社会問題の、解決の糸口は見つからない。 (おわり) (姫田小夏/ジャーナリスト)