児童相談所職員は3年目でベテラン扱い?増え続ける児童虐待、AIは対応に追われる現場を救うか
▽過去に死亡事案、どこまでAIを活用するのか AIシステムを巡っては、関係者にとって忘れられない事件がある。2023年5月、津市の自宅で4歳だった女児が死亡し、その後、女児への傷害致死容疑で母親が逮捕された。 事件前の2022年2月、女児が通う保育園から「顔にあざがある」との通告があった。しかし、三重県の児童相談所は一時保護を見送る判断をした。システムが似たケースでの保護率を「39%」と算出したことが判断の一因となった。三重県は検証委員会を設置。システムを手がけた企業の協力も得て、原因や再発防止策を検討している。 システムの開発会社でも、AIをどこまで業務に活用するのかで判断は分かれる。NTTテクノクロスは、コールセンター向けのサービスを江戸川区児童相談所(東京)に導入した。AIの活用を相談内容の記録業務に限定しているのが特徴だ。 導入前、NTTテクノクロスの角尚明営業担当課長は児童相談所に何度も足を運んだ。印象に残ったのは電話対応の多さだ。通告が入ると、子どもの生存確認、学校への連絡、警察への緊急通報など職員がせわしなく動く。その上、通告者保護の観点から、児童相談所は折り返しの連絡ができず、聞き逃しや勘違いは許されない。
新システムは通告時の電話音声をテキスト化して、モニターに表示する。内容はすぐに周囲の職員と共有できる上、「服に汚れ」「泣き叫ぶ」といった注意が必要な言葉を色づけしたり、応答に必要な関連資料を表示したりできる。 2021年に江戸川区児童相談所に試験導入して以降、他の児童相談所から問い合わせが相次いだ。角さんは「現場はものすごく過酷だ。少ない人でも回せるようにしたい」と話す。 ▽やりがいは大きいが、保護者から怒鳴られることも こども家庭庁によると、児童虐待の相談件数は、2011年度の6万件弱から、2022年度には21万9000件(速報値)に上った。特に子どもの前で配偶者に暴力を振るうといった「心理的虐待」が増えており、全体の約6割を占める。政府は負担増に対応するため、職員拡充を掲げる。子どもの保護や親の指導に当たる児童福祉司は2022年度に約5780人だが、これを2024年度までに千人ほど増やす。