“普通の”元会社員ほど定年後「仕事がない」切実 シニアがいきいき働き続けられる場はどこに?
日々やることも、行くところもなく、家に閉じこもりがちになれば、体力は衰える一方。フレイル(筋力や心身の活力が低下した虚弱な状態)や認知症のリスクも高まるだろう。 そうした中、高齢者の社会参加や健康づくりにいち早く取り組んできた自治体がある。千葉県柏市だ。 同市は、高度経済成長期に東京都心のベッドタウンとして発展。地域の高齢化が急速に進む中、高齢住民の社会的孤立や孤独死への危機感を抱いていた。 そこで同市は2010年より、東京大学高齢社会総合研究機構、UR都市機構と協定を結び、「長寿社会のまちづくり」を開始。前田さんもこのプロジェクトの一員として、まちづくりの事業に携わった。
「当初は、高齢者の孤立を防ぐべく、地域にサロンや喫茶店など集まりの場を増やすべきでは、と仮説を立てていました。 しかし、実際に当事者のお話を聞いてみると、『仕事があれば明確に外出の目的が生まれる』との声が最も多かった。集まりの場よりも、雇用の場を生み出すことのほうが重要だとわかったのです。 とはいえ、現役時代のように毎日電車通勤してフルタイムで働くのは厳しい。 『地域で無理なく楽しく働ける場があればそれが一番いい』との要望が多かったことから、『生きがい就労』をコンセプトとして固め、シニアの力を“地域の課題解決”に活かそうと考えました」
■「農業」や「子育て支援」で活躍の機会を そうして立ち上がったのが、「生きがい就労創成プロジェクト」だ。地域の休耕地を利用した都市型農業事業や、子育て支援事業を地域の事業者らと立ち上げ、シニアの「生きがい就労」の場をつくった。 たとえば、農業事業においては、田植えの補助作業や野菜の栽培・出荷作業にあたってもらうほか、子育て支援事業では、学童・保育園などで子どもの見守りや遊びのサポート業務を担ってもらう。
2013年には年間で230人超の高齢者の雇用を生み出した実績がある。 実際に働き始めたシニアからは、「生活のハリができた」「以前よりも健康になった」「地域に友人がいなかったが、新たに仲間ができてよかった」との声を多く得られた。 一方、事業者からも「短時間の労力が欲しいときにシニアの就労は助かる」「高齢者に周辺業務を担ってもらえることで、本業に専念できて事業のパフォーマンスが上がった」などの評価を得られたという。