今の競馬界で“秋古馬3冠”ほぼ不可能…でもドウデュース&武豊なら「とんでもないこと」やれる
<角居勝彦元調教師 Thanks Horse(46)> 不可能を可能にする-。グランプリ有馬記念(G1、芝2500メートル、22日=中山)の枠順が19日に確定した。ラストランを迎える王者ドウデュース(牡5、友道)は1枠2番に入った。JRA・G1・26勝の角居勝彦元調教師(60)は月イチ連載「Thanks Horse」で、被災地能登での激動の1年を回顧。あらためて実感した「競馬の力」を象徴するレースで、至難の“秋古馬3冠”に挑む人馬に太鼓判を押した。 【写真】有馬記念の枠順公開抽選会でドウデュースを引く長澤まさみ ★とんでもないことが立て続けに とんでもないことが、こんなにも立て続けに起こるのか-。そう思わされた1年でした。元日の地震では珠洲ホースパークの人馬こそ無事でしたが、ライフラインが止まり、特に水道は復旧まで4カ月以上もかかりました。9月の豪雨では輪島市の自宅へ土砂が押し寄せ、今も消防から「住まないでほしい」と言われているので、牧場の宿直室で寝泊まりをしています。自然の力を身に染みて感じましたし、当たり前と思っていた生活が当たり前ではないと気づかされました。 一方で、被災をきっかけに、牧場や引退馬支援の活動が行政や企業などより多くの方に認識され、思わぬ出会いにもつながりました。そうしてできた新たなパイプも生かし、今は牧場の「オフグリッド化」を目指してクラウドファンディングをお願いしています。電気、水道、通信などを公共設備に頼らず自前でまかなえれば、災害にも耐えられます。近くに建てられた仮設住宅に暮らす方々が馬を介して交流できる場にもなればと考えています。 ★「競馬の力」のすごさを実感した このような状況の中で「競馬の力」のすごさもあらためて実感しています。一番近い競馬場(金沢)まで車で2時間半もかかるような土地ですが、競馬に詳しい方は多いです。はるか遠方から引退競走馬に会いに来られるファンもいます。 今週の有馬記念は、そんな「力」を最も感じられる一大イベントです。ファン投票や公開枠順抽選会などが行われ、テレビCMでも佐々木蔵之介さんが「みんなでつくる特別な舞台」とおっしゃっています。 ★レース特性が違い力通りには… 今年の主役は“秋古馬3冠”に挑むドウデュースです。昨年に同じく天皇賞・秋とジャパンCを連勝して有馬記念に出走せず引退したイクイノックスとは別の道を選びました。ちょうど1年前のコラムで私は、この3連勝が「今の競馬界ではほとんど不可能に近い」と書きました。3戦ともレースの特性が違い、それぞれの条件を得意とするスペシャリストとも戦わなければならないからです。特に中山2500メートルはトリッキーで、技術や駆け引きを求められ、力通りの結果にはなりません。 それでも、鞍上には百戦錬磨の武豊騎手がいます。驚いたのは前走のジャパンCです。後方にいて3~4コーナーから馬なりでまくり、一気に先頭に立って最後まで持たせました。直線が長い東京で、あそこから動いたら普通は失速します。人も馬もすばらしかったです。あの脚があれば癖のある中山コースでも自在にさばけるでしょう。死角はなさそうです。いい意味での「とんでもないこと」をやってくれるのではないでしょうか。 ★種牡馬としても楽しみドウデュース ドウデュースの周りには、私にとって縁のある方が多くいます。そのチームにも目が離せません。 松島正昭オーナーは引退馬支援にご理解とご協力を頂き、牧場にも馬運車を寄付してくださっています。武豊騎手は私の厩舎にいたウオッカやカネヒキリでG1を勝ってくれました。 友道調教師とは互いに調教助手だった時に松田国英厩舎で一緒に働きました。指示や指導に対し反抗しがちな私と違い(笑い)、真摯(しんし)に受け止めるまじめな方でした。ともに調教師になってからは同じ部屋で調教を見ていましたが、私のようにイライラせず、スタッフに任せて黙々と見守っておられました。 担当する前川助手は、かつて私の厩舎に所属していました。馬乗りの技術に優れ、常に明るいムードメーカーでした。尊敬する藤沢和雄先生(元調教師)が「ハッピー・ピープル・メーク・ハッピー・ホース(幸せな人が幸せな馬をつくる)」とおっしゃるように、人の気持ちは馬へ伝わります。だからこそありがたい存在でした。 先月にトレセンへ行った時は、ドウデュースに乗ったまま私に近づいて「お久しぶりです」とあいさつしてくれました。 その時に見たドウデュースは、胴長でもなく今なおマイルで走れるぐらいの体つきでした。種牡馬としても、いろんなタイプの子供を出してくれるでしょう。引退後も楽しみです。 有馬記念は番号を選べる宝くじのようなレースです。いろんなことのあった1年でしたが、年末の風物詩を多くの方々に楽しんでいただけたらと思います。