十数年前に相続した「雑草だらけの約200坪の農地」を手放したい…75歳男性が検討する「国の引き取り制度」は“使える制度”なのか?【行政書士が解説】
相続土地国庫帰属制度は「使える制度」か「使えない制度」か?
相続土地国庫帰属申請の進め方として、本申請をする前に、法務局での事前相談が用意されています。ここで土地の状況を相談し、承認可否の見通しを立て、本申請に進めるか否かを判断することになります。そして、明らかに却下要件や不承認要件に「具体的に」該当しなければ、国は承認しなければならないとされているので(帰属法第5条)、事前相談の段階(本申請前の事前確認を含む)で明らかな問題がなければ、帰属できる可能性があるということになります。 ただし、相続土地国庫帰属制度の利用には費用がかかることも忘れてはいけません。本申請時の審査手数料が土地1筆当たり1万4,000円、帰属が承認されると「宅地・農地・森林・その他」の区分により、標準的な10年分の土地管理費用相当額の負担金として原則20万円、もしくはその他一定の土地については面積区分に応じた金額の支払いが義務付けられることになります。 相続土地国庫帰属制度については、「要件が厳しすぎて使えない」という意見もあれば、「当初想像していたよりは使える」という意見もあります。 ただ今回の相談者は、相続した不要土地の処分について、一般不動産流通市場での売却や不動産業者による買取り、隣地所有者への売却や無償譲渡、自治体への寄付など、あらゆる可能性を模索した結果、最終手段として相続土地国庫帰属制度の検討に行きつきました。もしこの制度がなければ万策尽きていたかもしれません。 また、今回の相談事例のような更地の農地ではなく、小屋や古い樹木がある土地の場合では、近年の異常気象による台風や豪雨によって飛散や倒壊、倒木の恐れがあります。周囲の人や財産に甚大な被害をおよぼしてしまうと、工作物責任に問われることになります。そう考えると、他に方法がないなら、承認時の負担金を納付してでも国に引き取ってもらうことは、終活として検討しておいたほうがよいでしょう。 平田 康人 行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表 宅地建物取引士 国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター 「相続・遺言・終活・不動産」に専門特化した行政書士事務所として活動。“行政書士業務”と“宅地建物取引業”を同時展開する二刀流事務所として、共有不動産の競争入札による売却や、仲介手数料が不要となる親族間・個人間不動産売買のサポートにも対応している。著書に『ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』『最新版 ビジネス図解 不動産取引のしくみがわかる本』(どちらも同文館出版)がある。
平田 康人
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