十数年前に相続した「雑草だらけの約200坪の農地」を手放したい…75歳男性が検討する「国の引き取り制度」は“使える制度”なのか?【行政書士が解説】
“こんな土地”は相続土地国庫帰属制度の「対象外」
相続土地国庫帰属制度では、申請時点で却下される「却下要件」、申請後に法務局の現地調査や関係行政との協議の結果で申請不承認となる「不承認要件」が定められています。 例えば、次のような土地は却下要件(門前払い)に該当するとされ、申請時にただちに却下となります。 ・建物がある土地 ・担保権(抵当権など)や使用収益権(地上権など)が設定されている土地 ・通路や水路など、現在他人に使用されている土地 ・土壌が汚染されている土地 ・境界が明らかでなく、争いがある土地 また、次のような土地は不承認要件に該当するとされ、申請後の審査により不承認となります。 ・崖(勾配30度以上かつ高さ5メートル以上)がある土地 ・果樹園の樹木や廃屋、古いブロック塀などがある土地 ・地中障害物(建物基礎、建築資材ガラなど)がある土地 ・隣地所有者と通行などで揉めている土地 ・その他、通常の管理や処分に過分な費用と労力を要する土地
申請までこぎつけられれば、約90%は「帰属承認」
相続土地国庫帰属制度が始まり、本稿掲載時点で約1年半が経過しました。法務省では、相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する統計について、3ヵ月に一度のペースで更新し公開しています。 直近公表の令和6年8月31日時点での運用状況は以下のとおりです。 (1)申請総数:2,588件 <地目別> 田・畑:967件 宅 地:924件 山 林:413件 その他:284件 (2)帰属件数:782件 <種目別> 宅 地:312件 農用地:254件 森 林: 27件 その他:189件 (3)却下・不承認件数:81件 ・却下件数 :43件 ・不承認件数:38件 (4)取下げ件数:374件 ※「取下げ」とは、申請後に「国や自治体の有効活用の決定」や「隣地所有者から引受け申出あり」など、国が引き取る理由がなくなったための申請者による取下げのこと。 以上から、次のような数値が導き出されます。 (1)帰属承認率:90.6% ※計算式:782件(帰属総数)÷[782件(帰属件数)+81件(却下・不承認件数)]=90.61%≒90.6% (2)却下・不許可率:9.4% ※計算式:81件(却下・不承認件数)÷[782件(帰属件数)+81件(却下・不承認件数)]=9.38%≒9.4% (3)審査中件数:1,351件(令和6年8月31日現在) ※計算式:2,588件(申請総数)-[782件(帰属件数)+81件(却下・不承認件数)+374件(取下げ件数)]=1,351件 これを見ると、申請までこぎつけられれば帰属承認率は約90%、却下・不承認率は約10%となり、比較的高めの帰属承認率となっています。 ただし、上記計算の分母は申請総数であるため、法務局への事前相談時点ではじかれて、申請まで辿り着かない件数(未公表)を加えると、実質的な帰属承認率は上記より下がることが推測されます。 また、法務省が公表している相続土地国庫帰属申請後の標準処理期間(申請から結果が出るまで)は8ヵ月となっており、申請件数の多くは現在審査中であるので、これらの審査結果が帰属承認率や却下・不承認率にどのように影響するかは今後注目されます。
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